アイコトバ 61





オリンピックのあるこの年は、赤崎が代表としてチームから抜けることが多い。

その間に他の選手達が経験を積んで伸びているのだから、チームに戻ってきた赤崎も中々気が抜けない。

「この間のフランスどうだった?」

廊下で声を掛けられてが立ち話に応じる。

「まあ、良い刺激にはなりましたよ」

「だろうねー。でも、ウチはお金がないから基本的にキャンプも国内じゃない?」

「寧ろ『都内』じゃないスか」と笑いながら赤崎が応じる。

「だね」と笑っても同意した。

「そんな中で赤崎くんは海外に遠征して、経験を積めているんだから、ラッキーって言うのはちょっと違うかもしれないけど。皆とは別のところで経験を積めるからウチも心強いよね」

「けど、その分チームを離れるからウカウカ出来ないって言うか...」

「達海さんは容赦ないしね」とは頷いた。

「けど、もうちょっとで五輪だね」

「ウス」

「サイドバックでの起用が多いけど、その点はどうなの?」

「何か、取材されてるみたいっスね」

苦笑して赤崎が言う。

「よーし、じゃあ。このお兄さんがサイドバックとしての極意を教えてやろう」

いつの間にかの隣に立っている石神が腰に手を当て、胸をそらしてそういった。

目の前の赤崎は目をぱちくりとし、は「いいですねー」と促す。

「いいか、赤崎。サイドバックなんてな。やれ上がって攻撃に参加しろだとか、やれ、抜かれたらディフェンス気を抜くなとか言われる、そんなポジションなんだぞ?一番走ってるのは俺達なのに、文句を言われるのも俺達サイドバックが多いんだから」

うんうん、と頷きながら石神が言う。

「なるほどー、勉強になります」とが相槌を打ち、石神は「だから、ちゃん。俺に優しくして?」と続けている。

えー、と。何だ?何でここで突然石神が出てくるんだ??

石神の背後を覗いてみると廊下の角に人影が見えた。

完璧に面白がられている...

前にジーノが案外分かりやすいって言ったが、つまりは、これは皆にバレているということだろうか...

「石神さん」

「ん?どうした??」

「あっち、手招きしてますよ」

振り返ると本当に手招きされていた。

おっと、いけない。サイドバックの話になったからつい出てきてしまった。

「んじゃ、ごゆっくり」と言って石神は廊下の角へと消えていった。


「何なんだよ...」

呟いた赤崎に

「愛されているってコトでしょう、赤崎くんが」

が笑いながらそういった。

「『遊ばれている』の間違い、もしくは愛されているのはさんってことじゃないんスか?」

不機嫌にいう赤崎には笑いを堪えて、「まあまあ」と宥める。

「ま、いいっスけどね」

やっぱり不機嫌のまま赤崎は溜息を吐いた。

しかし、気を取り直して「さん」と彼女の名前を呼ぶ。

見上げたの耳元で何かを囁いた。

「おお〜!」という声が廊下の角から聞こえる。

は少し振り返り、赤崎を見上げた。

「意外とキザなことを言うのね」

「いいじゃないスか。たまには...」

拗ねたように言う赤崎に苦笑をしては「まあ、期待してテレビの前でスタンバイするわ。幸いにも、開催地は時差が殆どないことだし」と言って笑う。

―――五輪でのオレのシュート。全部さんのため、ってことで。

赤崎はそう言った。

こんなキザったらしいことはジーノの専売特許だろうと思っていたのだが、赤崎も中々どうして...

「じゃ、」とちょっと恥ずかしくなってきた赤崎はその場を逃げるように去っていき、「有里ちゃーん、仕事しようね」と廊下の角に隠れていた集団の中にいた有里に声を掛けては広報部へと足を向ける。

さん、気づいていたんですか?!」と有里が廊下の角から姿を現して駆けて来る。

「まったく...みんな大人気ない」とが呟くと「やっぱり気になります」と有里が返した。

「赤崎くんはみんなにバレていないって思い込んでるんだから。ちゃんとそのようにしてあげたらどうかしら。大人として」

の言葉に有里が「え?!」と驚きの声を上げた。

「私、結構早くに気が付いたほうだと思うんですけど...さんにだけは何とか隠し通したがっていた様子が窺い知れたから知らん振りしていましたけど。もう、気づいているんです..よね?」

有里の問いに「大人なので」とが返した。さすがに「昨年告白されました」とは言えない。

「意外と純情なところありますよね、赤崎君。で、赤崎君はさっきさんに何て言ったんですか?」

興味津々、好奇心の塊となっている有里がに問う。

は人差し指を唇に当てて「ヒミツ」と返し、ウィンクをした。









桜風
11.1.1


ブラウザバックでお戻りください