アイコトバ 





何か、ちょっと面倒なんだよな...

特に不満はないが面倒だと思う。

本日の赤崎はオフで、の家に向かっている。

「一緒に住むとか..ムリだな」

はアマチュアチームでスタッフをしている。今は2部リーグBだが、実力的には2部にあがってもおかしくないところまで力のあるチームだ。

リーグの成績によってはカップ戦も出場可能である。つまり、ライバルになりうるチームだ。

そんなライバル同士が一つ屋根の下なんてことを良しとしないのはあのサッカーバカなの普段の言動を見ていれば推して図ることが出来る。


しかし、突然トンズラされたあのときに比べれば...

悲しい感じのポジティブシンキングで赤崎はの住んでいるアパートに入った。

ノックをすると犬の吼える声がする。

『シュート!』と扉の向こうでその犬を叱るの声が聞こえた。

「いらっしゃい」と扉を開けてが微笑む。


こっちに来てもう2年か...

何となくそのことを思い出した。

ETUが優勝した次のシーズンからは日本から消えた。

そのときの喪失感は本当に辛かった。

毎日夢であって欲しいと思い、朝が来るのが嫌だった。

しかし、意外なことにジーノに叱咤されて目を覚ますことが出来た赤崎は日本代表のユニフォームを着て活躍し、その後スペインリーグに移籍してとの再会を果たした。


こちらに住むようになって赤崎は定期的ににあっている。

お互いの気持ちは確かめているし、それは今でも変わらないと信じているのだが...

きゃんきゃんと吼えるの愛犬、シュートはがスペインに住むと決めた年に雨に打たれているところを思わず拾ったらしい。

曰く、「この生意気盛りなところが誰かさんに似てたから」とのことで、名前をその人からもらうべきかどうか悩んだと聞いたときには「本人の了解を得ずに名前をつけるわけには行かないスもんね」とちょっとちくりと嫌味を言ってみた。

彼女には全く効かなかったようだが...


「今日、どうします?」

シュートは赤崎のことを嫌いらしく、赤崎が来るとものすごく興奮して攻撃してくる。

しかし、に怒られるからあまり強く当たってきたりしない。

怒られるたびにしゅんとするシュートを見るたびに「これって、オレ?」という錯覚に陥ることがあるが、それはに言うと大爆笑されかねないので言わないでいる。

「んー、外ご飯かな?大丈夫??」

随分と人気のある選手の赤崎は外に出るとサポーターに声を掛けられる。しかし、マナーが割りと良いほうなのでプライベートに踏み込まれなくて、そこら辺は良いサポーターだと思う。

「大丈夫でしょう。さんがイヤじゃなかったら」

「別に大丈夫。慣れっこだ」

笑いながら返された。

「パソコン借りますよ」と言ってのノートパソコンを開けた。

検索して新しい店を探してみようと思ったのだ。

「何食べたいスか?」

「んー、何だろう。ドルチェの美味しいところ」

が言う。

「デザートがメインって...」

苦笑しながらもの要望に応えるべく、赤崎は条件を入力する。

「ねえ、赤崎くん」

「何スか。ドルチェ以外、何か希望が?」

「結婚しようか」

「あー、結婚。...はっ?!」

危うくの大切にしているパソコンを落とすところだった。

「あ、ダメなら良いよ。今すぐの話じゃないし」

「いや、ちょ..」

赤崎は盛大な溜息を吐いた。

さん、ちょっとそこに正座しましょうか」

促されては靴を脱いでベッドの上に正座した。

赤崎も靴を脱いで正座をする。

「いいっスか、さん」

「はい」

「突然過ぎます」

「あー、だよね...わたしもそうじゃないかって思ったんだけどね。無理だったら良いから忘れて」

軽く言うにくらりと眩暈を覚えて赤崎は額に手を当てた。

「まず、ちょっと整理しましょう。さん、何で突然言い出したんですか?」

「わたし、もう30なの」

「知ってます」

赤崎が頷く。

「わたし、30代に結婚したいと思っていたの」

「初耳です」

「で。まあ、もうちょいかかるかもしれないけど。ウチのチームが2部にあがったらフロントを辞めようと思ってるの」

「また選手達に何も言わずに?」

相当根に持っている...

は深く反省しつつも「うん」と頷く。

「良いっスか、さん。まず。選手には挨拶してやってください。ホントに、本っ当に、キツイんスからね」

「はーい」

「次に、何でメシの話をしてるときにそんな軽く言うんスか。寧ろ、プロポーズはオレにさせてください」

赤崎の言葉にはきょとんとした。

「いや、きょとんとしないでください」

「だって...あれ〜?結婚とかイヤなのかなと思ってたんだけど...」

「何を根拠に」

くじけそう...

赤崎はうな垂れた。

「だって、若い男の子って結婚とかそういうのビジョン的に浮かばないって言うし」

「オレ、そんなに若くないんスけど...ていうか、ETUに居たときからさんとだったら結婚とか全然オッケー、寧ろ今すぐ区役所行きますか?って勢いだったんスけど」

赤崎の言葉にはまたしてもきょとんとした。

「そんながっつかれているとは思わなかったわ...」

「引かれたらイヤだったんで、色々抑えてたんスよ」

不貞腐れて赤崎が言う。

「そっかー、そうなんだ...」

はそう呟き、少し嬉しそうな表情を浮かべる。

「あ、でも。さっきのさんの言葉はなかったことにしてください」

「なんで?」と少し悲しそうな表情を浮かべられてしまい、赤崎はちょっとくじけそうになる。しかし、此処は譲れない。

「オレが、今度改めてプロポーズします」

「そんな宣言されたら期待しちゃうよ?」

悪戯っぽく笑ってが言う。

「いいっスよ」と少し挑発的に言う赤崎に「じゃ、期待しちゃおう」と言って満面の笑みを浮かべた。









桜風
11.3.12


ブラウザバックでお戻りください