アイコトバ
 




天宮杯が終わって10日が経った。

リーグ優勝に続いての優勝だったので、扱われ方も大きい。さらに、ETUが小さなクラブと言うことも扱いが大きくなった原因のひとつだろうとは思う。

着信があり、ディスプレイに表示されている文字を確認して出た。

「はい」

『村越さん?です』

「ああ、どうした?」

やっと取材やら何やらから開放されたと思っていたのだが、もしかしたら急遽取材が入ったのだろうか。

『明日、お時間あります?』

「取材か?」

『いいえ、そうではなくて...個人的な、プライベートな用事と言いますか...』

歯切れの悪いがどうにもおかしいと思ったが特に用事がないので「別に構わないが」と返事をする。

『ありがとうございます!』と返事をした彼女は場所と時間を告げて通話を切った。


翌日、指定された時間にそこへ向かう。

空港に入っているラウンジだった。

「村越さん!」

先に来ていたが立ち上がって声をかけてきた。

軽く手を上げて村越は応える。

「どうした、こんなところで」

そこまで言って、村越はの装いを見た。

「お前...」

「昨シーズンを持ちまして、ETUを退職しました」

軽くそう言う。

「ちょ、待て。聞いてないぞ?!」

「知ってるのはフロントのみです。監督も知りません」

キッパリとそう言うの表情は清々しい。

「なぜだ?せめて挨拶してから出て行けば良いだろう」

気持ちの整理が出来ない者たちが出てくるかもしれない。は選手達を大切にしていた。だから、選手達はを信頼していたし、好きだった。

彼女よりも年長の選手は彼女を妹のように可愛がっていたし、逆に彼女よりも年が少ない選手達は彼女を姉のように慕っていた。

そして...

「何で、俺にだけ?」

村越の言葉には苦笑いを浮かべる。

「一番付き合いの長い選手だから、ですかね」

たしかに、そうだろう。

自分は入団してから一度もこのチームから出て行ったことがない。だから、自分の在籍年数=との付き合いの長さだ。

「わたしね、自惚れかもしれないんだけど」と彼女は前置きをした。

「辞めるって言ったら選手の皆にも引き止められると思うんですよ。フロントの皆にも全力で引き止められたけど。でも、ちょっと自分の中で整理しておきたいことがあって」

「...何を、だ?」

「わたし、強いETUが見たかったんです。それが目標で、自分の夢だったんですよね。その夢に向かってまっすぐに突っ走って、昨シーズンを終えました。見たかったものが見れたんです。
じゃあ、その次は?わたしからETUがなくなったら、どうなる?
それを考えて、答えが出なかったんです。怖くなって...わたしにとってETUは最優先事項とか言っていたけど、結局依存してただけなのかな、って。そう思ったら何だか怖くなったんです。だから、わたしからETUを取ったら何が残るのか。それを探しに行こうと思って...
ま、自分探しの旅ってヤツです。青春ですよね!」

の言葉に村越は溜息をついた。


分からなくもない。

「...赤崎はいいのか?」

「あら?」

村越の言葉には苦笑しながら首を傾げた。

「ま、そこは一番触れてはいけないと思います」

の答えに肩を竦めた。「そうか」と一言漏らす。

「とりあえず、高飛びしてこようかな、って」

「その表現はどうかと思うぞ」

呆れたように言う村越には笑う。

「村越さん。わたし、ちゃんと帰ってくるつもりなんですけど。そのときまで現役でいてもらえたら嬉しいなー」

「体を壊さない限り、ずっと現役を続けるつもりだ」

村越の答えには嬉しそうに微笑んだ。

「あ、そうそう。今の携帯、使えなくなりますから。今日、親に解約してくるように頼んでいます」

アナウンスが流れる。

「あ、」と呟いたからの乗る飛行機のものだと言うのが分かった。

「たまには連絡を寄越せよ」

村越の言葉にはニコリと微笑んだ。

これは、きっと連絡を寄越すつもりはないな...

「皆にはわたしが辞めたこと、まだ言わないでくださいね。シーズン最初の練習のときに会長が話してくださると思いますし。
ではまた!」

そう言って敬礼をしてはその場を後にした。

窓の向こうのの姿が見えなくなるまで見送った村越は溜息をつく。

「ま、俺が言ったからな...」

はもう自由だ、と。10年前と違って自分の意思で何処にでも行ける。

しかし、まあ...

別れを惜しむことなくあっさりと去っていったに苦笑を漏らした。

「気をつけていけよ」

ポツリと呟く。居なくなってやっと出た言葉にちょっと呆れた。









桜風
11.1.22


ブラウザバックでお戻りください