アイコトバ
 




着信を知らせる音が鳴って、は電話に出た。

「もしもし」

相手はディスプレイに表示されている。

しかし『おう』と返ってきた声は別の人のものだった。

「あれ?石神さん?村越さんとデート中ですか?」

の言葉に電話の向こうの石神が声を上げて笑い、『コシさん。今、デート中かって聞かれましたよ』と態々村越に報告している。

それを聞いてまた別の笑い声が聞こえた。

ああ、ベテラン陣で飲んでるんだ。


ちゃん、もう家に居るの?』

「ええ、まあ。皆さんは..お店ですよね?」

さすがに村越の家に集まってご飯ということにはならないだろう。

『うん、今からまた出てくる気ない?てか、堺が健康志向でさー。肉食いたいよ、肉』

『頼みゃいいだろうが』という堺の声が聞こえる。

かなり体に気を使っているらしいから、こういうときにもヘルシーなもの、というかカロリーの少ないものばかり注文するのだろう。

「あー、ムリですね。ひとりお持ち帰りしちゃったので。そうじゃなかったら出て行きましたよ」

の言葉に『おお〜!』と石神が声を漏らす。

『誰?』

「有里ちゃん」

間髪いれずにが返して笑う。

『んだよ、根性ねぇなー...』という丹波の声が聞こえた。

「石神さんたちは、わたしが今日、外にご飯食べに行ってるの知ってたんですか?」

『ん?まあ、世良がアレだけ騒いでたらなー。ベテランには内緒で、とか俺達の背中で話してんだぜ?どう思う?!』

それを聞いては苦笑し、「世良くんらしいと思います」と返した。

『しかも、普通さ。若手がそういう意図で声を掛け合ってたら、ベテランとしては聞かない振りするじゃん?丹さん、入ろうとしたからね』

「大人げなーい」

は苦笑して零す。

『だろう?見かねたコシさんが俺らに声をかけてくれたってわけ』

「村越さん...なんか、苦労を自分から買ってる...」

最年長だから、村越の奢りになるのではなかろうか...

『そういや、あいつらちゃんとたちの分、奢った?』

話し相手が変わった。

「丹波さん、大人気ないですよー」

『ああ、うん。で、どうなの?』

「ご馳走してくれるって話になってたみたいですけど、断りましたよ?」

『何で?!あいつらの方が断然稼いでるじゃん。たちの給料はどれくらいなのか知らないけど、たぶん、あいつらの方が上だろう?...って、メンバー誰?世良と赤崎と..他には?』

「椿くんと、清川くん。他の人たちは急すぎて捕まらなかったみたいです」

『椿、飲めるの?!』

「今日はそれどころじゃなかったですねー」とが笑いながら返す。

『どういうこと?』

「有里ちゃんが大暴れ。たぶん、役得なんだろうけど、椿くんにとってはそうじゃなかったみたいですよ」

『んじゃ、今度俺らも有里誘って飲みに行こー!も来るだろう?』

「有里ちゃんは、今日だから荒れただけだと思いますけど...」

そんな会話をしていると後ろから抱きすくめられた。

さん、私を置いて、誰と話をしてるんですかー」

微妙に呂律が回っていない。

「丹波さん」

『な、何?』

「今から永田家にお届け物したら拙いですかね」

お届け物=有里なのだが、先ほどから絡んで絡んで本当に大変なのだ。

『有里、何かあったの?』

「ま、フロントも大変ってことです」

の言葉に『ふーん』と返した丹波が『コシさん、代わりますか?』と声を掛ける。

『いや』と返した村越の声が聞こえて、『んじゃ、堺は?』『別に』『堀田』『いいっス』という声が続く。

、お前意外と嫌われているんじゃないのか?』

「あー、そうかもしれませんね。今日は涙で枕を濡らします」

そう適当に返したに軽く笑って返し、『んじゃ、ガンバレー』と言って通話を切った。



「ありがとうございました」

丹波が村越に携帯を返す。

このメンバーでの携帯番号を知っているのは村越だけだった。

どうにも聞いても教えてもらえそうにない気がするし、普段はそんなに困らないからいいやと思っている。

「...聞いてみたらどうだ」

「コシさんが教えてくれれば丸く収まりますよ」

「俺が怒られる。そういうの嫌っているからな、は」

って、何で自分のことを話さないんだろう...」

石神が呟いた。

あまり自分のことを話さない。だから、ちょっととっつきにくい。

「前に『多少ミステリアスな方が良いじゃないですか』って言っていたけどな」

多少?!

「何スか、それ」

心から呆れたように呟いたのは堺で、「っスね」と苦笑して堀田も頷いた。

「まあ、聞けば教えると思うがな」

村越の言葉に「そうっスかぁ?」と疑わしげな声を上げた丹波に「ホント、お前怖いもの知らずだよな」ポソリと呟いた堺の言葉を、大人な村越は聞かなかったことにした。









桜風
11.2.5


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