アイコトバ
 



ピンポーンとインターホンがなったので彼女は出た。

「どうしたの、2人とも」

目を丸くした彼女に2人のうち1人がニッと笑った。

、何処に高飛びしたの?」

玄関先でそういわれて彼女は苦笑した。

「ま、入りなさいよ」


品川のマンション。

見上げたときには「はぁ...」と感心と言うか呆れと言うかの溜息が漏れた。

「ここの、30階らしいな」

メモを見ながら笠野がいう。

「30階?!さぞかし見晴らしが良いんだろうなー」

達海はそう呟きながらマンションに踏み込んだ。

元々は浅草に住んでいたが品川に引っ越したその理由は、母親が京都に通いやすいように、ということだと推測する。

だから、此処に引っ越してからは浅草に通っていたことになる。

なんとも母子揃って熱烈なサポーターだ。


「どうぞ」とお茶を出され、「ありがとう」と言って手を伸ばす。

「それで。娘の居場所でしたっけ?」

「うん、教えて」

「口止めされているのよねー、ごめんね」

そう言ってあっさり断ったの母の反応は予想済みだ。

「んじゃ、これをあげるって言ったら?」

そう言って笠野に視線を向けて促す。

笠野が鞄からクリアファイルを取り出し、目の前に座るの母に渡した。

「こ..これって...!!」

「ウチのユニフォーム、来期はちょっとデザインを変えることになったんだよ。んで、レプリカの見本を作るんだけど...の居場所と連絡先を教えてくれたら、これあげるよ?」

物で釣る。

古典的だが、効果はある。何せ、このレプリカの見本で作るユニフォームの背番号が『50』なのだ。

以前、から聞いたことがある。

今度ユニフォームのデザインが変わるときに作る見本の背番号は『50』が良いと母親に言われたと。

理由を問えば

「あの人、何ていったと思います?『50』ってゴトーって読めるでしょう?まだ言うか!って感じですよ。しかも、持って帰れって言うし!!」

がぷんすか怒っていたのだ。

だから、此処は敢えての『50』。

「ついでに、『GOTO』って名前も入れちゃう!」

「乗った!あ、の連絡先を教える前に誓約書にサインしてね。誓約書って言うか、契約書?」

こんなにあっさり乗るとは思わなかったので少し肩透かしだが、達海はの母が作った契約書にサインをする。

サッカーをすること以外で契約書にサインとかあまり経験がない..気がする。

サインをして、お互いが1部ずつ持つ。

「あ、連絡先はウチがこのユニフォームを持ってきたときで良いよ。急がないし。おばちゃん、それで良い?」

「良いけど、そっちこそそれで良いの?」

「これ、実はもう発注かけてるんだよ。だから、そう時間が掛かるものじゃないしな」

笠野の言葉に「なるほど」との母が頷く。

「何でしたら、連絡を頂けたらこちらからクラブハウスに伺いますけど?」

の母の言葉に「いや、また来るよ」と返され「では、それでいいですけど...」と曖昧に頷く。



その交渉があった10日後。

「《もしもし?》」

忙しい中でうっかりとった電話。

『よー。久しぶりだな、。今のってスペイン語?』

「は?!誰、わたしの番号教えたの。お母さん?!」

の口調はちょっと不機嫌だ。

『ははっ。ウチ、今期ユニフォームのデザインチェンジしたんだよ』

「まさか、『50』?!」

『そのまさか』

「それだけで娘を売ったのか、あの人は!!」

電話口で吼えるの耳に『ははは』と愉快そうな達海の声が届く。

「...昨シーズンも優勝したじゃないですか。ETU、本物の強さですね」

仕方ないので話題を変えた。

『うん、ウチは強いから』

「ですね」とは苦笑する。

『元気か?』

「バリバリ働いてます」

『そっか』と返した達海は『んじゃ、またな』と言う。

「用事ってなかったんですか?」

驚いて言うと『ははは』と笑われた。

『ま、今日は挨拶。それと、ビックリさせたかっただけ』

「じゃあ、目的を達しましたね」

投げやりなの言葉に『そーいうこと。じゃーなー。さらーば』と言って達海は電話を切った。

「ったく...」

呟いたは時計を見て時間を確認し、実家に電話をするのを見送った。電話するには遅い時間だ。

そういえば...

こんな遅い時間に態々電話をしてきたと言うことは、時差のことを考えて達海は電話をしてきたと言うことだ。

まあ、電話をしてくるのだからそれくらいの気遣いは必須項目だ。

携帯を仕舞って空を見上げる。耳に届くのはボールを蹴る音と、選手達の活気のある声。

!》

呼ばれたは返事をしてそちらに駆け出した。









桜風
11.2.26


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