アイコトバ
 




廊下から選手達の声が聞こえる。その中にの声もある。

「最近、ちゃん慣れたみたいだな」

後藤が言う。

「は?」と返したのは達海だ。

「ほら、人見知りだっていってけど。選手達とあんなに普通に話して...」

そういった後藤の言葉に達海は心底呆れた表情を浮かべた。

「あのさぁ...ホントに後藤はあのの設定信じてたの?」

「設定?」

聞き返した後藤の表情を見れば彼が心底それを信じていたことが分かる。

「あのさ、後藤。って1年ヨーロッパに留学してたって聞いたんだけど?」

「ああ、そうみたいだな。だから大学で1年留年したって聞いたけど。向こうの単位が認められなかったからって。それがどうしたんだ?」

「向こうで生活をするのに、人見知りでずーっと通せるはずないだろう。最初はそうでも、否が応でもそんなもん克服してるって。俺だってそうだったし」

「...達海は最初からそう言うのなかっただろう」

呆れた表情の達海に同じく呆れた表情で後藤がそう返す。

「ま、が人見知りってのはまずはありえなかったってこと」

「じゃあ、何でずっと外国語..英語で話してたんだよ」

「さあ?本人に聞いてみたら?でも、何となーく想像はついてたけど」

そんな会話の中、が事務所に顔を出す。

「あら、珍しい。ああ、会長と副会長が居ないからか...」

偶になら顔を出すが、達海が事務所に居座ることは殆どない。

既にリラックスムードを漂わせているので長い時間此処にいたのだということは分かった。

ちゃん」と後藤が改まって名前を呼ぶ。

「人見知りって言うのは..その...嘘だったって聞いたんだけど」

「嘘..ですか。うーん、本当ではなかったってことですかね」

あっさり返す。

後藤が固まった。

「何で達海さんは分かったんですか?」

「元々サポーターとしてここに来ていたときからそんな様子がなかったし、向こうに住んでて人見知りを貫き通す方が大変だろうしね。特に、東洋人は」

「まあ、姉のところには住んでいたんですけど」

「四六時中一緒じゃなかったんだろう?だったら、ある程度自立してないと生活できない。経験者は語る、だよ」

達海の言葉に「つまんなーい」とは呟き、資料棚に足を向ける。

「あの、じゃあ...」と後藤が言う。

「はい?」と振り返ってが手を止めて聞く姿勢を取った。

「今まで日本語を話していたベテランと若手の境目は何処だったんだい?」

皆が気になるところなのだ。

は少し考え、「秘密です」と笑った。

目当ての資料も見つかったので事務所を後にする。


「達海は分かるか?」

「んー?まあ、何となく」

そう返す達海に後藤は説明を求める。

「たぶん、若手は外国語に慣れさせたかったんじゃないのか?」

後藤の眉間に皺が寄る。

「若手だけ?」

「たぶん..代表に入れるかどうか、年齢と今代表に入っている選手の層から考えてある程度のラインは考えていたんだと思うなー。
ベテランは代表に呼ばれた経験はなくてもプロとしての経験を積んでいるから外国語に腰が引けることはないだろうけど、若手は..な。
俺としてはそれはの杞憂だと思うけど。ま、あいつなりに色々と思うところがあってやってたんだろうよ」

苦笑して達海が言う。

「そうか...じゃあ、逆に言えばちゃんが英語で返していた選手達はまだ代表を期待されているんだなー」

だから、若手...

「ま、スギはクロの煽りを食ってだろうけど」

笑いながら達海が言う。

「煽り?」

「あいつらもたぶん本来なら日本語圏だよ。けど、クロの場合は『楽しいから』で英語だったんじゃないかな。で、クロが英語ならスギもだろう?」

クツクツと笑う。

それで『煽り』...

確かに、と後藤も苦笑する。

「けど、達海は最初からちゃんの意図は分かったんだよな。なのに、何で最初から禁止しなかったんだ?」

「まだそこまで行ってなかったから。チームの形を整える方が先だろう。全部を一遍にする必要がそん時は感じられなかった。けど、今は後半でクラブが一丸となって戦っていく必要があるから、禁止した。
だって分かってるよ」

苦笑しながら言う達海に後藤は感心した。

今まで何度も感じていたが、達海とは似ているし、お互いの考えが何となく分かるんだな、と。

似ているから分かるのかもしれないが、それにしたって何となく以心伝心と言った印象を受ける。

「さーて、戻ろうっと。お邪魔ー」

そう言って達海は事務所を後にした。









桜風
11.3.5


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