| 練習を見学に来るサポーターの顔ぶれというのは、シーズンも中盤になると固定化される。 新たな顔が増えても、その隣には知っている顔がある。 だから、彼女は目立った。 シーズン半ばで初めて見る顔だったから。しかも、独りで立っている。 勿論、選手達は練習の見学にやってくるサポーターの顔を全て覚えているということはない。 ただ、ビッククラブならいざ知らず。 ETUという、地域密着型といえば聞こえがいいが、ただ資産も大きくない小ぢんまりとしたクラブの選手を練習に見学に来てまで熱心に応援するサポーターはさほど多くなく、固定化されたサポーターは自ずと顔後覚えてしまうのだ。 練習が終わり、サポーター達の前を歩いて選手はクラブハウスに戻っていく。 その途中にサインを頼まれれば大抵応じる。 応じないのは、このチームでエースナンバー10を付けている、トリックスターのルイジ・吉田くらいだ。 彼は『ジーノ』で選手登録しており、若手の選手達には『王子』と呼ばれている。 というか、呼ばせている。 彼はサポーター達に人気はあるし、実力も認められているが、あの性格で中々一筋縄ではいかない選手としても認識されている。 サインを求められても応じたことがないのだとか。 選手の皆が覗うように新顔を確認していると 「何だ、帰ってきてたのかい」 と、何と、ジーノが声をかけていた。 「あ、いたいた。何処に居たの。全然見つからなかった」 (結構目立ってましたが...!) ジーノの傍を歩いていた世良が思わず心の中で呟く。 「じゃあ、また後で」 彼女にそう言ってジーノはクラブハウスへと向かった。 世良が思わず彼女の顔をじっと見ると彼女は苦笑してヒラヒラと手を振ってその場から去っていった。 「何スか、今の」 眉間に皺を寄せて赤崎が呟く。彼女が何者か、さっぱり分からないままだ。 「...王子の彼女?」 言ってみた清川はその言葉を何とか自分で否定しようと試みたが、できなかった。 何せ、その説が最有力候補だ。 服を着替えてクラブハウスを出ようとしたジーノに「王子!」と声がかかる。 足を止めてゆっくりと振り返ると広報の有里が駆けて来た。 「何だい?」 首を傾げて彼女に問う。 「さっき、若い子たちから聞いたんだけど。王子、彼女居るの?」 広報として、変なスキャンダルは避けてもらいたい。 そう思っての質問。 「彼女?恋人ってこと??」 (それ以外に何があるの?!) 有里は頷く。 「いないよ」 「え、でも。今日...」 「ああ、確かに。アレはボクのだけど...」 (『ボクの』って...!) 「まあ、半野良って感じでもあるかな」 「...『野良』?」 ジーノは何の話をしているのだろうか。 「えっと、今日、練習に見学に来てた人の事なんだけど」 「ボクもその人の話をしているよ。あの子は、半野良だ」 有里が考えているとジーノは 「それだけかな?じゃあ」 と言って去っていく。 「え、ちょ...!王子!!変なスキャンダルは...!!!!」 有里がジーノの背中にそう叫ぶと、彼は振り返らず、足も止めずにただ優雅に軽く手を上げて応じた。 「有里さん、どうだったスか?」 帰り支度を済ませた世良が事務所を覗く。 「良くわかんなかった。『半野良』って言ってて...」 「『半野良』?どういうことっスか?」 同じく気になってついてきていたらしい赤崎が問う。 「わかんない。だって、王子ってば、まともに答えてくれないんだもん。あー、変なところに変な感じですっぱ抜かれたらどうしよう...」 ((こんな小さなクラブチームですっぱ抜くってあるのか?例え、それがエースでも、ビッククラブならいざ知らず...)) 世良と赤崎は同じことを思ったが、口には出さなかった。 意外とこういうところは賢明である。 |
桜風
12.9.22
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