きまぐれ猫と王子様 2





ジーノが愛車に乗って自宅の高級マンションへと帰宅した。

ドアの鍵を開けて中に入ると思ったとおりのスニーカーが脱いである。



家の中に居るジーノ曰くの半野良ことに声をかけた。

「おかえりー」

リビングの様子を見てジーノは溜息をつく。

彼のお気に入りのソファにが寝そべっているのだ。

「そこはボクの特等席だよ」

「それは失敬」

そう返した彼女は動こうとしない。

ジーノは溜息を吐いた。これ見よがしの。

しかし、彼女は全く動じない。

「ねえ、おなか空いちゃった。これ、どれか頼まない?」

そう言って彼女が床に並べたのは宅配ピザのチラシだった。この高級マンションにはその手のチラシは入ってこない。

どうせ客が取れないだろうから。

だから、そんな無駄は会社としては避ける。

つまり、そんなものはこのマンションの、ジーノの家のポストには入っていない。

が態々店から取って帰ったものなのだろう。店頭にチラシが置いてある店もあると以前彼女が言っていた。

「いやだよ。ボクの体が安っぽい油で重くなる」

「おやおや、さすがルイジ・吉田」

からかうようにが言うとジーノは不機嫌を露にする。

「本名、そんなにヤなの?」

「知らないのかい、。みんな、ボクのことを王子って呼ぶんだよ」

「呼ばせてる、の間違いでしょ」

笑ってが返した。

ジーノは溜息をつく。

「で、おなか空いたんだけど」

「いつもの店のピッツァをデリバリーさせるよ」

そう言ってジーノは電話をし始めた。

「ルイジって、ひとり暮らしでこの生活ってどうなの?」

ごろごろとジーノお気に入りのソファの上を転がりながらが言う。

「不便はないし、困ってないよ。あと、そこ。いい加減どいてくれないかな?」

ジーノがそういい、少し冷ややかな視線を彼女に向けた。

「はーい」と言ってはジーノのお気に入りのソファから降りた。

「あ、そうだ」

そう言って彼女は自分の荷物の元へと向かう。

「はい、お土産。白と赤とロゼ」

そういいながらジーノの前のテーブルに置いていく。

「ロゼ?」

ジーノが眉間に皺を寄せる。

あまり好きではない。

「ロゼはいいよ。が持って帰ればいい」

「いやいや、いいから飲んでみなって。それでヤだったらあたしが大人しく持って帰るから。今、ピザ頼んだんだし、丁度いいから飲んでみようよ!」

ジーノは盛大な溜息を吐いた。

普段、チームでは自分のペースを全く崩すことなくプレイしている。

ディフェンスには参加せず、オフェンスも最低限の動きで。

練習もに出るが、とりあえず、夏も長袖。日焼けがイヤだから。

それなのに、がジーノ以上のマイペースな人間であるため、ジーノはペースを狂わされることが度々ある。

イラつくこともあるけど、イヤでもない。

そこが特に不思議で、を気に入っている理由でもある。

「今回はどこに行ってたんだい?」

「南フランス」

「メジャーどころだね。にしては珍しい」

ジーノが言うと

「そうだね」

と彼女は笑った。


彼女の職業は、ツアーコンダクターだ。

特に海外がメインとなっている。

語学が堪能であることを買われているらしい。

ジーノと知り合ったのは、彼女が個人旅行を楽しんでいるときだった。

南イタリアの片田舎。普段だったらジーノが全く興味を持たないところだったが、その地方に古くからある教会は一見の価値ありとあまりに知り合いが進めるので行ってみようと気まぐれを起こした。

その気まぐれを後悔したのはその数時間後。

現地で調達した車が動かなくなったのだ。

何とか騙し騙し動かしていたが、往来でプスンと動かなくなった。

数メートル先にはヒッチハイクする気満々の女性が居て、彼女には悪いが、そこまで到達できなかった。

「あれれ〜」

ヒッチハイクの彼女が近付いてきた。

<どうしたの?>

不用意だな、と思いながら

「動かなくなってしまったんだよ」

とジーノが返す。

「あら、日本人」

「ハーフだけどね」

ジーノはそう応じてさて、困ったぞと悩む。

「ねえ、あたしがこれを直せたら乗せてってくれる?」

突然彼女が言う。

「それができたら、お礼に君の目的地まで責任を持ってお連れするよ」

「オッケ」

彼女はそう言って荷物を適当に車に放り投げてトランクを開けた。

工具を取り出して手際よく作業をする。

ジーノはそれを眺めるだけだった。下手に手など出せないくらい、彼女の手際が良かったのだ。

「よっし、どーだ!」

そういわれてジーノはエンジンをかけようとしたが良い感じに掛かりかけて、プスンと止まった。

「ダメだったみたいだね」

「こんなときは、右斜め45度からのチョップ!えいっ!!」

「は?」

ジーノが零した声に被さるようにエンジンが唸りだす。

「さっきまで精密機械を相手に手際よく作業をしていた人の所業とは思えないね」

ジーノが苦笑して言うと

「おばあちゃん直伝。家電製品の直し方」

と彼女が笑って言う。

「じゃあ、約束どおり君の目的地までお連れしよう」

「助かるわー」

と彼女は助手席に座る。

「警戒心が薄いね」

ジーノが零すと

「たぶん、あなた一人を伸すことが出来そうだから」

と返されて言葉に詰まった。

「そういえば、あなたの名前を聞いてもいいかしら?」

「ジーノ」

ジーノはそう返した。

「それ、あだ名よね?」

そういわれて「そうだよ」と言う。

「まあ、いいわ。あたしは、

「じゃあ、だね」

すかさずジーノが言う。

「まあ、いいけど」

彼女は肩を竦めてそう呟いた。









桜風
12.9.29


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