きまぐれ猫と王子様 3





車の中では意外とお互いのことを話した。

ジーノは、今思い出しても彼女に対して素直に自分のことを話したことを驚いてしまう。

「ジーノは何屋さん?」

が問うと

「サッカーって知ってる?」

とジーノが返す。

「ああ、意外と有名よね。世界的に」

と彼女は笑った。

「サッカーって泥臭いイメージがあるんだけど。ジーノのイメージとリンクしない」

「そういうプレイをする人もいるね」

とジーノが応じる。

「じゃあ、ジーノはそうじゃないんだ?」

「さあ?ご想像にお任せするよ」

「所属は、こっちのチーム?」

「日本」

「へぇ。有名?」

「無名ではないよ」

人によっては、ジーノの応答に気分を害すだろうが、彼女はそれを楽しんでいた。

(ヘンテコな子だ...)

ジーノは少しだけ愉快な気分になる。

「こちらからも聞いてもいいかな?」

「どうぞ。フェアに行きましょう?」

おどけたように彼女が言う。

「君は、何屋さんだい?」

彼女の問いに倣って言うと

「水先案内人」

と返ってきた。

「水先案内人?」

鸚鵡返しに問うと

「ま、旅先で旅行者に『こっちですよー』っていう人」

「ああ、ツアーコンダクターか。客を放っておいて迷子になるツアコンって大丈夫なの?」

「今回は、プライベート旅行。しかも、迷子じゃないし」

少しムキになって言う。

「これは失礼」

肩を竦めてジーノが口先だけの謝罪をする。

しかし、暫くしてジーノは彼女がツアコンとしてかなりヤルということが分かった。

道をよく知っている。

勿論、ツアーコンダクターが車を運転して現地を案内するわけではない。

だが、彼女は何度もこちらに来ているのか、意外と裏道などを知っており、予定よりも随分と早く街中に戻れた。

「さっきはからかって悪かったね」

ジーノが素直に謝罪すると

「いいよ、楽しかったし」

と彼女が応じる。

彼女を目的地で降ろし

「じゃあ、縁があったらまた会いましょう」

と彼女は笑った。

「あるとは思えないけど」

ジーノはそう返してその場で別れた。


それから数ヵ月後。

オフの日にジーノが車を運転していると歩道を見た人が歩いていた。

思わずクラクションを鳴らす。

彼女はそれに気付き、そして笑った。

「あら、ルイジ・吉田」

彼女はそういった。

ジーノは苦い顔をしたが、後ろの車にクラクションを鳴らされて窓を開け「急いで」と言う。

彼女は驚いたように眉を上げ、そのままジーノの乗る高級車の助手席に納まった。

外車だから、助手席は車道側だというのに見事に滑り込む。

車を走らせてジーノは「どうやら、縁があったみたいだね」と言う。

「そうだね」とも応じた。

「『ルイジ・吉田』だから、ジーノなんだね」

彼女が言うとジーノは不機嫌になる。

「あ、嫌いなの?」

「さあ?でも、みんなボクのことはジーノか王子って呼んでる」

「王子?!」

ジーノの言葉には思わす頓狂な声を漏らしてしまった。

「凄いね...」

心底感心したように彼女が言う。

褒められたと思ったジーノは少しだけ得意げだった。



「あー、超懐かしい...」

「おはよう」

ジーノお気に入りのソファの上で寝転がっていたが寝返りを打って仰向けになるとジーノが顔を覗き込んできた。

「...おはよ。懐かしい夢を見ました。あたしがジーノをルイジ・吉田と知った頃の夢」

「人の家で良くもそんなに熟睡できるね」

溜息混じりにジーノが言う。

(猫でももっと警戒心があるだろうに...)

「よっ」と体を起こして窓の外を見たらとっぷり暮れていた。

「あー、帰ろ...」

「送っていかないよ?」

ジーノが言う。

「すぐそこじゃん」

軽く手を振って彼女が応じた。

「気をつけて」

ジーノの言葉に「あいよー」と返した彼女は玄関を出て行った。

テーブルの上には、半端に開いたワインが3本。

ロゼも意外と美味しかった。









桜風
12.10.6


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