| 見知らぬ顔が練習の見学に来ていた翌日、休憩時には皆チラチラとギャラリーを見ていた。 「今日も来てる」 目ざとく見つけた世良が言う。 練習を見に来ていた有里にパタパタと手を振り、小さな動作でギャラリーを指差した。 それに気付いた有里はギャラリーを盗み見る。 (...あの人ね) ジーノに聞いても、きっと埒が明かない。 ならば、ギャラリー本人に聞いてみるべし、と有里は何気ない風を装ってギャラリーに向かった。 「こんにちは」 声をかけられては苦笑する。 さっきから、自分が注目の的だということは察していたのだ。 「こんにちは、スタッフさん?」 「え!何故それを...!」 有里が慌てる。 「それ、首から提げてるじゃない」 スタッフのネームプレートを指差して言う。 「あ、ああ。そうでした」 バツが悪い思いをしながら有里は彼女の隣に立って再開した練習を眺める。 「どうですか?」 有里の言葉に 「何が?」 とは問い返す。 「王子です」 「...ホントに王子って呼ばせてるあたりどうかと思うわ」 肩を竦めてが言うと声をかけてきたスタッフは眉を上げた。 「で、その王子様はいつもどうなの?」 「『様』は必要ないですよ」 「あら、そうなの?ちょっと半端ねー」 が言うと隣に立っている有里は凄く混乱し始める。 少し可哀想かな、と思い 「友人よ、それ以上でもそれ以下でもない」 と彼女が最も聞きたかったであろう答えを口にした。 「へ?」 「ジーノとの間柄を聞きにしたんじゃないの?海をわたった向こう側で知り合って、母国に帰って再会して、今ではたまの飲み友達。ただ、ジーノの家での宅飲みね」 の言葉に彼女はぐいと迫ってくる。 「王子の家に、行ったことがあるんですか?」 「うん。あたし、ツアコンだから帰国したときにジーノにお土産を持っていくの。大抵、ワインとか、そういう『貴族』っぽいものになるけどね。ジーノの好みを考えたら結局そうなっちゃうのよねー。で、ついでに飲ませてもらってるの。これでいいかしら?」 そういわれて有里はコクリと頷いた。 「じゃあ、昨日もえっと..わたし、永田有里といいます。お名前を伺ってもいいですか?」 「あはは。イマドキ中々礼儀正しい子ね。よ」 苦笑しては返す。 「えっと。さん。じゃあ、昨日もここに来ていたのは...」 「帰ってきたから顔見せ。さすがに家に帰ってあたしがいたら驚くと言うか、怒るかなって。あと、寧ろここにきたら驚くかなって」 イタズラっぽく笑ってが言う。 「王子はともかく、選手とスタッフは驚きました」 肩をガクリと落として有里が言う。 「ジーノってそんなに話題性のある人なの?」 が若干驚いて声を上げると 「うちのエースですしね」 と有里が返す。 「マジで?!」 (エースと言うのは、もっと周囲に気を配り...) そこまで考えては頭を振る。 それは、どちらかといえばキャプテンの仕事だ。エースは気まぐれなのがなるものだ。 勝手な想像だが、そう思ったしジーノに限って言えば、間違っていないと思う。 ピッと笛が鳴った。 「あれ、練習終わり?」 「ええ、そうですね」 「意外と短いのねー...」 が呟くと、 「あとは自主練です。フィジカルコーチと相談してメニュー組んで」 「そういうもんなんだー。1日中練習してるんだと思ってた。部活みたいに」 の言葉に有里は苦笑する。 「そう思われている方、多いみたいですね」 「じゃあ、ジーノって暇人ねぇ」 そう言った はジーノに軽く手を挙げてそのまま回れ右をした。 「何の話をしていたの?」 ジーノが有里に聞く。 「えーと...」 (何の話だっけ?) 結局、特に内容のある話をしたような気がしない。 したのは、彼女がジーノの友人であるという確認だけだ。 「と話をすると、ちょっと面白いでしょ?」 少しだけ誇らしげにジーノが言ってクラブハウスへ帰っていった。 「...?!」 これまでジーノは数多くあだ名をつけてきた。 大抵「びみょー...」と呟きたくなるようなものばかりなのだが、彼女のあだ名は凄く普通だった。 「そういえば、半野良の意味は何だったんだろう...」 彼女の職業に関係あるのだろうか。 考えながら歩いていた有里は躓いてこけた。 それを見ていた達海は腹を抱えて笑っていたという。 |
桜風
12.10.30
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