きまぐれ猫と王子様 6






「半野良でもボクのだしね...」

ジーノは呟いた。


が家に帰り、ポストを覗くと封筒が入っていた。

手紙のやり取りをするような人はいない。きっとダイレクトメールだと思ってそのまま階段を昇った。

テーブルに先ほどポストから取り出した手紙を適当にテーブルに投げて気がついた。

宛名が書かれていない。

つまり、まさにダイレクトにポストに投げ込まれたものだろう。

「や、きもい...」

開けるべきか開けざるべきかと悩んでいると携帯にメールが入っていたことに気がつく。

『ポストの中を見るように』というメールだった。

差出人はジーノ。

「ああ、ジーノか」

途端に安心してそれを開く。

ひらりと落ちてきたのはサッカーのチケットだった。

「はあ、サッカー...」

以前、はジーノに話したことがある。

ジーノがサッカーをしていると知ったのは新聞で見ただけで、実際にスタジアムに行ってサッカーを見たことはない、と。

勿論、ツアーコンダクターとしてお客と一緒に海外の試合を見に行ったことはある。

だが、日本のリーグは見たことがない。

その話をしたとき、何となくジーノが不機嫌だったように思える。

思い出してクスリと笑った。

「まあ、時間もあることだし」

呟いて、少しだけ寂しげに笑う。


チケットに書いてある日時にスタジアムに向かうと、結構な客の入りで驚いた。

「日本のサッカーって結構やるもんねぇ...」

スタジアムに入る前から何だか熱い。

呟いてスタジアムに入ると、これまた熱くて何だか応援合戦のようになっている。

さすがに圧巻で思わず仰け反る。

先ほど『結構やるもんだ』と表現したが『凄い』の言葉に取り敢えず置き換えた。

そして、さらに驚いたのはジーノの人気だった。

先日、スタッフが『エース』と言っていたのだから、エースということには疑いの余地はない。

だが、彼がボールを持つと回りが沸く。

ただし、すぐにボールを離すようである。さらに、ディフェンスに参加しない。

「これ、ありなの?」

FKを取ると、彼が蹴って確実にゴールするというのがどうもこのチームの鉄板のようで、FWがファウルを貰うと「王子!」と周囲が彼に期待していると声を上げる。

そして、その期待に応えるように、綺麗なシュートを決める。

「ほへぇ...」

間抜けな声が漏れるほどの鮮やかなシュートだった。

(てか、サポーターにも『王子』って呼ばせてるんだ...)

は苦笑した。

試合は、ジーノの所属チーム、ETUが勝利した。


てくてくと歩いて帰宅しながらスタジアムの雰囲気を思い出す。

みんな楽しそうだった。

「凄いねー、我侭王子様は」

苦笑する。

『我侭王子様』というフレーズはジーノにぴったりだ。

ピッチの上でも彼はペースを崩さない。普段と全く変わらない。

正直、凄いと思った。


家に帰って寝る支度をしていると電話が掛かってきた。

我侭王子様からだ。

「もしもし」

「やあ、今日の試合どうだった?」

「我侭王子様の活躍に驚かされました」

「...ワガママねぇ。まあ、いいけど。当分日本にいるんだからたまにはスタジアムに来たらいいじゃないか」

そういわれては驚く。

「何で知ってるの?」

「この間、ウチに来たときに酔っ払って散々愚痴を聞かされたんだよ」

盛大な溜息と共にジーノが言う。

「え、マジで?」

「ボクが大人しく愚痴を聞いてあげるなんてくらいだよ」

「それは、ご迷惑を...」

「けど。半野良とはいえ、はボクのだからね」

「...なに、それ」

呆れたようにが返すと電話の向こうでジーノが笑う。

は気まぐれな猫だからね」

「気まぐれはジーノでしょ」

思わず返すと「そうかもね」と同意されてしまった。

「ねえ、。どうせ、すぐに海外チームに戻されるだろうし、だったら今のうちにちっぽけで広い日本をのんびり見て回ってもいいじゃないか」

「はぁ...」

曖昧な相槌を打ってしまった。

ジーノの意図が分からない

「じゃあ、ね。お土産なくても気まぐれに遊びに来てもいいよ」

そう言ってジーノは電話を切った。

「はあ...」

ツーツーという電子音にまた曖昧に頷く。

ジーノが何を考えているのか基本わからない。

だから、考えるだけ無駄なのだが、どうやら慰めてくれているようだ。

は苦笑した。

「まあ、いい経験になるかもね」

自国のことを知ることは、他国を知ることになる。

ジーノの言ったとおり、そう遠くない未来に前の部署に呼び戻される気もしている。

「ま、いっか」

ジーノは気まぐれに遊びに来ても良いと言っていたので、明日行ってみようと思う。

どうせ呆れたように溜息を吐かれるのだろう。それは、いつのタイミングで行っても同じなのだ。

「でも、手土産くらいは要るよね。大人の対応として...」

何をもって行こうかと考えて「ふふふ」と笑う。

日本の名産、『くさや』を持っていってみようか。二度と来るなと追い出されそうだ。

色々と考えると楽しくなってきた。

国内の、ジーノのお気に入りを探すのも楽しそうだ。国内のことなら、リーグで飛び回っているだろうからジーノのほうが詳しいかもしれない。

穴場を探さなくてはならないだろう。

とりあえず、次のツアーの資料に手を伸ばし、スケジュールを確認することにした。









桜風
12.11.3


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