Bon appetit 5





 練習が終わって、帰宅したところで、すぐに献立表を貼っているコルクボードに向かった。

本日の献立。

「んだよ、これ...」

やはり難解だった。

仕方なく、の携帯にダイヤルする。

『もしもし』

「あ、俺だけど」

『...堺さん、ですよね?』

確認されてぐっと詰まる。

基本的に、女性に電話をするときには、それなりに、親密な仲になっていることが多く、つまり、電話をかけた時に名乗る癖がついていなかった。

しかし、確かに失礼な話ではあった。

「ああ、わり。堺、だけど...」

改めて名乗る。

『はい。えーと、今日の献立、難しそうですか?』

彼女が問う。

自炊しているということは、それなりの調理スキルがあると彼女なりに安心していたのだ。

「てか、食材がよくわかんねんだけど?」

そう言いながらよくわからないと思った食材を読み上げる。

『ああ、それは』

と彼女が解説してくれた。

日本名に直してもらえれば知っている物もあったが、それだけではない。

「普通の店にあんのか?」

『ありますよ。ここ最近、スーパーの品揃えを舐めてはだめですよ』

そう言った彼女に「どこのスーパー?」と堺が問うた。

車を出してそこに行った方が早そうだ。

「ああ?!」

が口にしたスーパーの名前に堺は声を漏らした。

『え、あの..何ですか?』

怒気に近いものを含んだその声音には少したじろぐ。

「そこって、普通のスーパーじゃねーじゃん」

『でも、都内にも結構店舗持ってますよ』

(知ってるよ)

などと思いつつも堺は話を続けた。

取り敢えず、1週間分の解説をもらっておこうと思ったのだ。

「んで、次なんだけど。作り方」

『はい』

聞きながらメモをしていた堺がふと手を止める。

「あのさ」

『はい?』

さん。今から、暇?」

『え?まあ、一応』

「ちょい、付き合って」

『は?』

「家、どこ?てか、最寄駅は??」

『堺さん、展開について行けてません』

慌ててが訴え、堺は納得した。

「聞いてメモしてもあんまわかんないから、来てつくってみせてくれないかなって」

そんな堺の言葉には絶句した。

「まあ、無理言ってるのは、自覚してるんだけど。一通り作って見せてもらったら、多分、次から言葉だけの説明でも理解できると思うし」

『難しかったですか?』

「...ちょっとな」

素直に認めるのはなんだか癪だが、事実その通りで、堺は頷いた。

『そうですか。...まあ、献立考えた責任も取らなきゃですね』

の言葉に堺は正直驚いた。

そもそも無理を言って頼んだのは堺で。だから、彼女が責任を感じる必要はないのだ。

そんなことを思って、罪悪感を胸に抱いていると彼女が突然駅の名を口にした。

「は?」

『さっき聞いたじゃないですか、最寄駅。私の家の最寄駅ですよ』

「...わるいな」

『いいえ。30分後でいいですか?』

「もう少しかかるかもしれないけど」

『了解です』

そう言って彼女は電話を切った。

あまりにあっさりと引き受けた彼女に首を傾げつつ、堺はありがたいとも思った。









桜風
13.8.25


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