| 練習が終わって、帰宅したところで、すぐに献立表を貼っているコルクボードに向かった。 本日の献立。 「んだよ、これ...」 やはり難解だった。 仕方なく、の携帯にダイヤルする。 『もしもし』 「あ、俺だけど」 『...堺さん、ですよね?』 確認されてぐっと詰まる。 基本的に、女性に電話をするときには、それなりに、親密な仲になっていることが多く、つまり、電話をかけた時に名乗る癖がついていなかった。 しかし、確かに失礼な話ではあった。 「ああ、わり。堺、だけど...」 改めて名乗る。 『はい。えーと、今日の献立、難しそうですか?』 彼女が問う。 自炊しているということは、それなりの調理スキルがあると彼女なりに安心していたのだ。 「てか、食材がよくわかんねんだけど?」 そう言いながらよくわからないと思った食材を読み上げる。 『ああ、それは』 と彼女が解説してくれた。 日本名に直してもらえれば知っている物もあったが、それだけではない。 「普通の店にあんのか?」 『ありますよ。ここ最近、スーパーの品揃えを舐めてはだめですよ』 そう言った彼女に「どこのスーパー?」と堺が問うた。 車を出してそこに行った方が早そうだ。 「ああ?!」 が口にしたスーパーの名前に堺は声を漏らした。 『え、あの..何ですか?』 怒気に近いものを含んだその声音には少したじろぐ。 「そこって、普通のスーパーじゃねーじゃん」 『でも、都内にも結構店舗持ってますよ』 (知ってるよ) などと思いつつも堺は話を続けた。 取り敢えず、1週間分の解説をもらっておこうと思ったのだ。 「んで、次なんだけど。作り方」 『はい』 聞きながらメモをしていた堺がふと手を止める。 「あのさ」 『はい?』 「さん。今から、暇?」 『え?まあ、一応』 「ちょい、付き合って」 『は?』 「家、どこ?てか、最寄駅は??」 『堺さん、展開について行けてません』 慌ててが訴え、堺は納得した。 「聞いてメモしてもあんまわかんないから、来てつくってみせてくれないかなって」 そんな堺の言葉には絶句した。 「まあ、無理言ってるのは、自覚してるんだけど。一通り作って見せてもらったら、多分、次から言葉だけの説明でも理解できると思うし」 『難しかったですか?』 「...ちょっとな」 素直に認めるのはなんだか癪だが、事実その通りで、堺は頷いた。 『そうですか。...まあ、献立考えた責任も取らなきゃですね』 の言葉に堺は正直驚いた。 そもそも無理を言って頼んだのは堺で。だから、彼女が責任を感じる必要はないのだ。 そんなことを思って、罪悪感を胸に抱いていると彼女が突然駅の名を口にした。 「は?」 『さっき聞いたじゃないですか、最寄駅。私の家の最寄駅ですよ』 「...わるいな」 『いいえ。30分後でいいですか?』 「もう少しかかるかもしれないけど」 『了解です』 そう言って彼女は電話を切った。 あまりにあっさりと引き受けた彼女に首を傾げつつ、堺はありがたいとも思った。 |
桜風
13.8.25
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