Bon appetit 6





 の言った最寄駅まで行き、電話をする。

すぐに応じたに自分の所在を告げると彼女はすぐに見つけたらしく駆けてきた。

「すみません」

「いや、それはこっち」

そう言って堺は車を発進させる。

「ウチの近くのスーパーでいいか?」

堺の問いに「はい」とが頷き、車は先ほど通った道を戻っていくことにした。

通い慣れたスーパーの駐車場に車を止めてと共に店内に入る。

「わー、ワクワクしますね」

の弾んだ声に苦笑を漏らして

「今日の献立」

とメモを渡した。

「堺さん、場所はわかりますか?」

「大雑把な分類ならな」

頷いた堺に頷き返し、は足を進める。

本人の言った通りに分類を把握している堺のおかげで買いものは思いのほか早く終わり、堺の住んでいるマンションに移動する。


「入って」

ドアを開けて堺がいい、「お邪魔しまーす」とが入る。

「念のために言ってみますけど」

が言う。

「あ?」

「いやらしいことしないでくださいね」

「しねーよ」

半眼になって返す。舌打ちは何とか飲み込んだ。

意外とは丹波と気が合うかもしれない。


キッチンに案内すると、彼女はすぐに道具の確認をした。

「一人暮らしでこのレベルって、逆に引きますね」

部屋を見渡し、

「整頓されてますし」

と、付け加える。

「いいだろ、どんな部屋にしてても」

「それもそうです」

頷いた彼女は、さっそく下ごしらえをした。

邪魔になってはならないが、彼女の調理の手順を覚えるために堺は彼女をここに招いているのだ。

少し距離を取って眺めている堺は、いつの間にか、彼女の調理に見入っていた。

「ちゃんと覚えてくれていますか?」

「ま、一応」

少しそう言ってごまかしながら堺は自分のための調理を眺めた。

久しぶりなそれ。でも、はじめてなそれ。

これまで付き合った子たちは悪い子ばかりではない。もちろん、悪い子もいたが、皆一生懸命だった。

一生懸命はわかっていたが、それを理由に許容ができなかった。

(俺も若かったんだなぁ...)

何となくそう思った。

反省の念もそこに含まれていたが、「堺さん?」と声をかけられて現実に帰る。

「わり」

「いいえ。できました」

「は?はやっ!」

「本業です」

彼女が胸を張って言う。

「どうぞ、召し上がれ」

勝手に皿も出して盛り付けた彼女が堺の前にそれを持ってきた。

「んじゃ、いただきます」

手を合わせてそう言い、口に運んだ。

「うま...」

「本業です」

彼女はもう一度、少しだけ誇らしげにそう言った。


食事を終えて食器の片づけをしていると、

「とりあえず、作らないまでも、基本をお教えしますね」

と調理法について彼女が言う。

「おう、助かる」

何年も自炊をしている堺は、ある程度の基礎知識はあるし、作った食事の数を考えれば、の説明を聞けば大体わかる。

目の前にいれば、説明に対して質問もしやすいし、彼女がイラストを描きながら教えてくれるから、とても分かりやすい。

とても..でもないかもしれない。

「何、このへたくそな絵」

「いいじゃないですか。伝わってないなら困りますけど、堺さん、私の説明、わかってるんでしょ?」

「まあ、わかるけど。けど、面白いんだけど」

「イラスト云々は放っておいてください」

ムキになって返すにまた堺が笑う。

「堺さんって」

「あ?」

「笑う人だったんですね」

「ああ?!」

何だか失礼なことを言われたと思った堺が威嚇する。

「ほら、すぐにそんな顔をする」

「怖い顔は、ガキの時からだよ」

怒ってもないのに、女子に何度泣かれて「堺君が泣かしたー」と言われた事か。

堺の苦い思い出が顔に出ており、は笑った。

「んだよ」

「苦労されたんですね」

「うるせ」

そんな堺の反応に、はまた笑った。

「...今日は、ありがとな」

「まあ、半端が一番怖いですからね」

苦笑して彼女が言う。

「今度、何か礼するから。献立考えてもらったものも含めて」

「それは楽しみ」

そう言って彼女はニコリとほほ笑んだ。

「うまいもん、食いに行くとか」

「それは楽しみ!」

彼女の瞳が輝いた。

その素直な反応に堺は笑う。

「何で笑うんですか」

「や、さんって意外と素直なのな」

そんな堺の褒め言葉に対して彼女は視線をさまよわせて「ありがとうございます」と礼を言った。

「悪いけど、また世話になるかもしれないから」

「なるでしょうとも?」

返したが少し生意気で、堺は彼女を軽くにらみ、彼女はその視線を軽く受け流した。

やはり、丹波と気が合いそうな子だと堺はそっとため息をのんだのだった。









桜風
13.8.31


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