子犬のワルツ 1





ガチャリとドアを開けた石神は目の前の光景に溜息をひとつ。

「まったく...」

自分の家もそこまで整頓されているとは言いがたいが、ここまでは酷くない。

、待て」

一緒に連れてきた犬にそう言ってまずは自分が足を踏み入れる。

脱ぎ散らかした服やぽいと投げたままのタオルを拾い集めながら部屋の中に広いスペースを作って

「おいで」

と言った。

尻尾をパタパタと振りながら部屋の中に入ってきたその犬は「ここが自分の場所」といわんばかりに部屋の一角に堂々と寝そべる。

そこらに散らかっている服やタオルは洗い物を溜めておく籠の中に突っ込んでおき、取り込んだ洗濯の山が入っている籠を覗き込んで肩を竦めた。

彼女が帰ってくるまでに時間とその気があれば畳んでおいてあげよう。

キッチンに移動して冷蔵庫を開けた石神は溜息をつく。

「食生活が全く見えないねぇ」

呟いて先ほど此処に来るまでに購入してきた食材を何とか詰める。

というか、冷蔵庫いっぱいにビールと栄養ドリンク。ちょっとしたつまみ以外ないとはどういうことか...

野菜室をあけたらコンタクトの洗浄液のみが入っている。

この間連絡を入れたらあまり家に帰れていないと言っていたが、『あまり』のレベルではないようだ。

家事を一通り適当に済ませて食事を作り始める。


つれてきた犬にも食事を用意し終わったところで

「ひさしぶりー」

とこの家の主が帰ってきた。

「それは、家に帰ってきたのが久しぶりってこと?」

玄関に向かいながら石神が問うと、

「生のガミくんに会うのが久しぶりってことー」

と彼女が言う。

彼女はパンプスを脱いで玄関に座り込む。

「動けない」

そう言って両手を伸ばす彼女に軽く溜息をつき、ガミくんと呼ばれた石神は溜息をついて彼女を「よっこいしょ」と言って抱え上げる。

「重いねー」

「あっはー、黙れ」

にこやかに挨拶代わりの会話をしながら石神が彼女を連れてリビングにやってきた。

「あ、ワンちゃん」

「いい加減、名前で呼んであげてよ」

石神は彼女を降ろし、先ほど作った食事を温めるためにキッチンに向かう。

「あのねー、名前の由来を考えたら名前呼べるわけないじゃない」

文句を言いつつ、ゴロゴロと寝転んで石神がつれてきた犬と戯れる彼女に

、着替えてきたら?」

と石神が声を掛けた。

「そーするー」

そう言って立ち上がった彼女は部屋に入っていった。

遊んでくれるはずの人が居なくなって石神の犬の『』は少しだけしょんぼりしたが、食事を再開した。

ホントに、名前の由来となった彼女にそっくりだ。

2人分の食事をテーブルに並べながら石神は苦笑を漏らし、おそらくジャージに着替えて戻ってくる彼女を椅子に座って待った。









桜風
11.10.28


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