子犬のワルツ 2





石神の予想通りジャージで部屋から出てきたは、いそいそとテーブルに着こうとしたが、

「手を洗ってないでしょう。うがいも」

と指摘されて肩を竦め「はーい」と不満たらたらの返事をしながら洗面所に向かった。

全く...スポーツ選手でなくとも体調管理はしっかりしないと...

普段、結構緩いだとか、適当すぎるとか言われる自分だが、彼女ほどではないといつも心の中で反論している。

「手洗い、うがいしてきました!」

「はい、ではどうぞ」

そう言って座るように促した石神に「ビール飲んじゃダメ?」と彼女が問う。

「食ったらね」

と言われて不承不承に彼女は椅子に座った。

「いただきます」と言って石神の作った食事に手を伸ばす。

「てか、冷蔵庫の中。何、漫画みたいなことをしてるの...」

呆れて零すと

「だって、大抵コンビニのお世話になってるもん」

と彼女が返す。

「外で食べて帰ったり、コンビニとかほか弁とかのお世話になったりで。食材はいらないけど、栄養ドリンクとビールは家に保管しておく必要があるでしょう?」

適量なら同意できるが、あれは同意できない。

肩を竦めて同意しない石神にも肩を竦めた。

「そういえば、此処最近よくガミくんのチームの記事を見るよ」

「監督が有名だからね。けど、若手であの人のことを知らないやついたよ」

「あたしも知らないよ」

が言うと石神は肩を竦めた。

サッカーを見てた人たちなら有名なのに...


「で、ガミくんは久しぶりにあたしに会いに来てどうしたの?」

「ああ、この間。を預かってくれていたからそのお礼」

は足元にいる石神がつれてきた犬を見て「ああ、まだ時間取れる時期だったし」と答えた。

それに、この犬を石神が引き取ったのは自分がきっかけと言っても過言ではないので、協力できるところは協力した方が良いと思うのだ。

偶々、自分の仕事の関係を考えても犬の世話をするくらいは時間を取れる日程だったのが幸いした。



石神とは同級生だった。

といっても、そこまで仲の良い同級生ではなかった。

クラスメイトだった、ということをお互い覚えていたことすら奇跡に近いと思う。

クラス会に何となく出て、何となく座った席の隣同士となり、適当に、当たり障りのない会話をしてその場を切り抜けていた。

そして、二次会突入とか言っているところをこっそり抜けては帰宅するために駅に向かっていた。

「あれ、もこっちなんだ?」

不意に声を掛けられて驚き、振り返ると石神が立っていた。

「ビックリした...」

「二次会、良いんだ?」

「あんま好きじゃないから、カラオケ」

なるほど、と石神も頷く。

「石神くんは?」

「俺?明日練習。あんま遊んでらんない」

そういえば、プロサッカー選手になったと周りが騒いでいたことを思い出す。

先ほどの自分との会話ではそんな話題は出なかったが。

「練習って大変?」

「んー?まあまあかな。けど、サッカー選手って言ったら毎日ずっと練習ばっかりしてるって印象があるみたいだけど、そこまで練習漬けじゃないんだよね」

石神の言葉に

「ま、練習で体を壊しても意味ないもんね」

が頷く。

驚かなかったに石神が驚いた。

大抵この話をすると「へー」と感心した声が返ってくる。

「そういえば、は今何やってるんだっけ?」

「さっき..そか、話さなかったね」

珍しい。

大抵、当たり障りのないところで仕事の話をすると言うのに、先ほどの自分たちと言えば、「犬を飼いたい」とか「車が欲しい」とかそんな煩悩の話しかしていない。

可笑しくなってが笑い始め、石神は目を丸くした。

「なに?」

「ううん、ごめん。何か可笑しくなっちゃって」

まあ、可笑しいから笑ってるんだろうなと石神は納得する。

「えーと...」と言いながらは鞄の中から名刺入れを取り出し、

「わたくし、こういう者です」

と言って石神に1枚の紙を差し出した。

「あ、どうもご丁寧に」

受け取った石神は「へえ」と呟く。

彼女はライターになっていたようだ。フリーのライターで、バスケの記事を書いているとか。

「人気あるの?」

「やなコト聞くなぁ...」

苦笑して彼女が言う。

しかし、ふと思い出した。

彼女は高校時代、バスケ部のマネージャーをしていた...ような気がする。

それを聞いてみると

「よく思い出せたね」

と彼女は目を丸くした。

「何となく、ね」

たしか、かなり有名な名物マネージャーじゃなかっただろうか。あの威勢の良さと言うか、漢らしさと言うか。

彼女にそれを言うと何となく大変なことになりそうなのでその点は黙っておくことにした。

おそらく、正解だっただろう。









桜風
11.11.5


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