子犬のワルツ 4





動物病院に連れて行き、受付で事情を話す。

とりあえず診察してもらえることとなってと石神は共に診察室に入った。

「少し衰弱していますけど、命に別状はありません。念のため、2〜3日入院させましょう」

中にそう言われて石神は頷き、そして先ほど車の中で話したことを相談した。

「んー、難しいでしょうね」

「今回の入院、治療代は俺が持ちます。あと、予防接種も要るんでしたっけ?その間に、こちらで貰い手を当たってもらえませんか?俺達も探してみますけど、おそらくこちらのほうが守備範囲が広いと思いますので」

「一応当たってみます。しかし、3日後までに見つからなかった場合はどうされるのですか?」

心なしか、獣医の口調が少しだけ厳しくなったように聞こえた。

「俺が飼います」

「小さくでも命ですよ?」

「だから、俺が飼うんです。ただ、初めてなので、色々と教えてください」

じっと石神を見ていた獣医は暫くして「わかりました」と頷いた。


送ると言ってくれた石神の厚意に甘えて車で送ってもらう。

「貰い手さん、見つかると良いね」

が言うと石神は「たぶん、ムリだね」と言った。

「何で?」

「種類がわかんないから」

どういうことだろう、とは首を傾げる。

石神曰く。

犬種がわかればどの程度大きく育つかがわかって自分の家で飼えるかどうかが判断できるだろうが、先ほど拾った犬は獣医が雑種と言った。

つまり、どの犬の血が入っているかが判断できないため、どのくらいの大きさまで育つのか、気性が荒いのかそうでないのかが判断できない。

「家ん中で飼おうと思っててもでかくなる犬だったら後々大変だしね」

なるほど、とは感心した。

そして、

「そこまで深く考えて犬を飼うのかな」

と呟く。

「逆に、そこまで考えてない人が飼うとアイツは逆戻りだよ」

石神の言葉に首を竦める。

逆戻りと言うことは、また捨てられると言うことだろう。

「それは、かわいそう」

「そ。だから、俺が飼う」

「けど、石神くんの家ってそんなに大きいの?」

「小さかない」

「そうなんだ...」

感心したようにが呟く。

「そういえば。って、子供の頃のあだ名って何?」

「あだ名?あー...ちゃんとかって呼ばれてた記憶があるな」

「ふーん、ちゃんね...」

「何?」

自分の子供の頃のあだ名がどうしたのだろう。

石神に聞くが、彼は「聞いてみただけ」という。

何だか少しだけ嫌な予感がしたのだが、それは考えないようにした。



数日後、石神からメールが送られてきた。

あの子犬の行く末が気になるから教えて欲しいと言ってからアドレスの交換を申し出たのだ。

石神からのメールにはあの子犬の写真が添付されていた。

可愛いなぁ、と和んでいるところで石神からのメールの本文にぎょっとした。

「はあ?!」と思わず駅のホームで大きな声を上げてしまい、ごまかしの咳払いをしつつその場から少し離れる。

『結局ウチの子になりました。名前は『』です。可愛いよ』

と名づけたらしい。

全くの偶然とは思えない。

ためしに電話をしてみると、数回のコールの後に石神が出てくる。

『さっき、メール送ったんだけど』

「見たから、電話してるの。何、『』って!!」

『や、命の恩人の名前をそのままつけるのは憚れたから、幼少のみぎりのあだ名で手を打ったっていうか?』

手を打ったと来たか...!

「あー、そー。ふーん...」

『ま、ウチのちゃん。超可愛いから遊びに来いよ』

「間違いなく美人に育つよ」

がそう返すと電話の向こうの石神は「あっはっはー」と声を上げて笑い、

『しかも、気の強い子に育つね』

と返してきた。

「また連絡する」

そう言っては電話を切ってホームに入ってきた電車に乗り込んだ。









桜風
11.11.26


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