子犬のワルツ 5





突然石神が声を上げて笑い始めたので近くにいたチームメイトは少しぎょっとする。

「ガミ?」

丹波が声を掛けると

「ああ、すんません」

と石神は携帯を閉じながら謝罪をした。

「なに、今の」

「イタズラしたら怒られちゃって」

てへ、と彼が笑うが、25過ぎた男がてへと笑って可愛いはずがない。

どちらかといえば気持ち悪いので周囲はげんなりした表情を見せた。


書店に行くとバスケット専門雑誌を探してぺらぺらと捲るのが習慣となった頃、から電話があった。

麗しの様を拝見する時間が出来たが、どうだろうかという伺いだった。

本当に『麗しの』という形容詞がついていたものだから、そのメールを見たときに石神はやっぱり声を上げて笑い、周囲にいたチームメイトに心配そうな表情を向けられた。

電話をして時間を確認し、最寄り駅まで彼女を迎えに行くと言う約束で当日を迎えた。

麗しの様とを待っていると彼女はかなり楽そうな格好でやってきた。

そういえば、以前のクラス会のときは仕事帰りだとか言っていたし、を拾ったときもスーツを着ていたと思う。
あれも仕事帰りだったのかもしれない。

「あら、ワンちゃんも一緒に」

嬉しそうにやってきたを抱き上げた。

「名前で呼んでやってよ」

「...気が向いたらね」

数秒の間を置いて彼女がそう返してきた。その数秒の間に葛藤があったことが何となく想像できる。


石神の家に案内されて入ってみて

「意外と片付いてるー」

が呟いた。

石神的には結構散らかっている方だと思っていた。

だから、彼女の部屋の様子を推して知ることが出来た。

ああ、これ以上散らかっているんだな、と。

そして、彼女は部屋の片隅に積み上げられている雑誌を目にして「ちょっと!」と石神に声を掛ける。

「ん?ああ。読んでるよ」

「面白くないでしょう?!」

「そうでもない。素人でも楽しめる仕様だと思うな。段々スペースもらえてるね」

そう指摘されては苦笑した。

その通りなのだ。

此処最近、やっと認められてきたといったところで、クラブの方とも結構距離が縮んできたと感じている。

それが良いか悪いかは別として。

石神に話をすると

「それはクラブの方に信頼されてきたってことでしょう。悪いことじゃないよ、たぶんね」

と言われてちょっと嬉しくなった。


「石神くんって自炊できるの?」

「出来なきゃ寮は出てない。もうちょい置いてもらえてたし」

そんなことを言われては驚く。

「意外だわ...」

はどうせ自炊とかロクにしてないんだろう」

何故わかる?!

そう思ったが「失礼ね!」ととりあえず返しておいた。

だが、その後。料理の腕前を披露すると大きく出てしまったは石神に盛大に笑われることとなる。

あまりにも石神が笑うものだからはすっかりいじけてしまい、石神はそれを宥めるのが大変だった。

大変だったが、嫌ではなかった。

って面倒くさいけど、不思議と嫌じゃないね」

石神が言う。

「褒めてる?貶してる?はっきりして」

「褒めてるじゃん」

笑って返す石神には肩を竦めて「ま、いいけどね」と呟いた。









桜風
11.12.3


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