子犬のワルツ 6





お互い『ガミくん』、『』と呼び合うようになったのはいつかはっきりしないが、そのまま何となく2人は付き合っている状況となった。

ケジメだ何だと気にする性格ではない2人なので、本当に何となくで、その点に全く疑問を抱いていないので何ひとつ問題となっていないのは平和的で羨ましいと以前チームメイトに言われた。


「何してんの?」

ある日、試合が終わった後にの姿を見つけた。

選りにも選って、後輩にインタビューしている。

は振り返る。

「あ、石神選手、お疲れ様です」

見事な他人行儀っぷりだ。

しかし、そんな他人行儀を許さない人物が石神のチームにいる。

「あれ、じゃん」

人の彼女を呼び捨てにする男、丹波聡だ。

は一瞬顔を引きつらせた。

「丹波選手もお疲れ様です」

そう言って彼らの後輩である選手へのインタビューを続ける。

「あ、じゃあ。次。俺次!!」

そう言って彼は後輩の後ろに並んだ。

「丹さん、そろそろからかうのやめた方が良いですよ」

一応、両者の関係者としての義務で石神は丹波を止めた。

だが、彼はかなり楽しんでいる。

一通りインタビューを済ませたがそのまま去っていこうとした。

しかし、その後ろを丹波がついて歩く。

あ...

石神がそう思った途端、は振り返ってにこりと微笑み

「本日出場機会がなかった丹波選手には何をインタビューすれば良いんですか?」

とズバッと言ったのだ。

「あーあ...」

「ひどい!、鬼、悪魔!!ガミ、お前酷いぞ!!」

「俺が酷いんですかー?」

俺、止めたじゃんとか思いながら石神は適当に返す。

「てか、はバスケからサッカーに鞍替えしたのか?俺の魅力の虜?」

何だか色々と面倒くさくなった。

は盛大な溜息を吐いて

「いつもお世話になっている編集者のサッカー担当者が二輪で事故って取材がムリになったので偶々編集部に顔を出していたあたしが代打を頼まれたんです。バスケは、オフシーズンですし」

と今の状況を説明した。

だよねー、と石神は何となく察していた事情が合っていたことに頷いた。

「お前、まさか。ちょっとサッカー選手と仲良しだから仕事もらえるとかってがっついたんじゃないだろうな」

丹波がそういった途端、はピクリと反応し、そして俯いた。

からかって言っているのは分かる。

分るが、

「丹さん」

それは言いすぎだ。

彼女はかろうじての理性で言葉を飲んでいる。

此処で、売り言葉に買い言葉とならないのは、ひとえに、の仕事に対する矜持によるもので、丹波は自分の失言に気がつき、助けを求めるように石神を見た。

自分で撒いた種のクセに、と思いながら、

「じゃ、さん。俺達もう行くね」

と声を掛けて丹波を促してその場を去っていく。


一度クラブハウスに戻ったところで電話が掛かってきた。

「もしもし」

『丹波のアホー!!』

思い切り叫べるように、カラオケボックスかどこかに入ってのこれだろうな、と思いながら

「本人に代わる」

と返して「丹さん」と名前を呼び、携帯を渡した。

「何?」

「自分で撒いた種。責任くらいはとってくださいね」

後で俺が宥めておきますけど、と言う言葉は口にせずにその場から少し離れる。

丹波が只管謝罪の言葉を口にしている姿を見て周囲は不思議そうに見守っていた。

「あの、丹さんどうしたんスか?」

声を掛けてきた後輩に

「ま、仕事を頑張ってる人をからかって酷い目にあったってところかな?」

と今の状況を抽象的に口にする。

彼は只管謝っていた。

謝られて、結局許してしまうのがのいいところだと思う。

そして、自分が許したのだから、と引き摺らない。

自分がかなりケロッと忘れてしまうタイプだからのような性格は非常に助かる。

これまで、色々と苦労したので彼女のこのさっぱりとした性格は本当に貴重でありがたいのだ。



石神が自分のマンションの窓を見上げて苦笑する。

殆ど彼女が来ることはないのに、と。

「ただいま」

「おかえりー。今日も凄く走ってたね。行ったり来たりで大変だ」

と戯れながら石神を出迎えたは、先ほどスタジアムに来ていたときと同じ格好だ。

家に帰っていないらしい。

「サイドバックなんてそんなもんだよ。それより、今日は丹さんが悪かったな」

そう言うと

「あの人、ホントめんどくさい」

と呆れながらが言う。

それに応じるようにが「ワン」と一声鳴いた。

「んで、サッカーの取材はウチだけ?」

実のところ、一番の気がかりがそれだ。

「ううん、何かもう日本中飛んできてくれって」

「番記者居るんじゃないの?」

「オリンピック予選に人員を割くからって。まあ、バスケのシーズンが始まったら、あたしが書くサッカーの記事は一切ないけど」

が言うと石神は「うーん」と唸る。

「どうかした?」

「や...思った以上にが同業者に注目するのが面白くないみたいなんだ」

と石神が言う。

はきょとんとして、やがて笑う。

「ガミくんでも嫉妬するんだ」

「まあ、ねー。俺も人の子だし」

そう呟いて石神は「あ、」と声を漏らす。

「何?良いことでも思いついた?」

からかうように彼女が言う。

「思いついた。明日、練習の後になるけど、時間ある?」

「少しならたぶん、作れるよ」

「じゃ、指輪を買いに行こうか」

「...は?!」

何を突然、とは頓狂な声を漏らす。

「虫除け、男避け」

そんなことを言う石神に「今更くさくない?」とが言うが

「今頃焦ってきたの」

と石神が返す。

珍しいこと言うものだ。

は心の中で呟き、「ま、貰えるもんは貰っとく」と返す。

「良い心だけだな」

そう返した石神は満足げに笑い、の額にキスをした。









桜風
11.12.10


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