| 掌にそっと落ちてきた白い雪がじわりと解けて消える。 空は快晴なのに、ちらちらと雪が舞う。 それを“風花”というらしい。 「つまりは、狐の嫁入りみたいなもんだろう?」 「響きが違うよ、“風花”のほうがきれいでロマンティックじゃない」 はそう言って膨れる。 「ま、どっちだって良いだろう。寒いことには変わりない」 ポケットに手を突っ込んでスタスタ歩く彼のあとをは慌てて追いかける。 「そんなこと言ってるけど、寒そうに見えないよ、良則」 「寒いって、ほら」と言っての頬に触れる。 「そんなに冷たくない」 そう言うと「ま、ポケットから出したばかりだしな」と言ってまたスタスタと歩く。 「手を繋ごう。そしたら温かいはず」 「イヤだ。俺の体温、絶対に取られる」 そう言って頑として聞かない堺の手を無理やりポケットから引っ張り出しては手を重ねた。 「冷たっ!」 思わず声を上げる堺には満足げに笑う。 「わたしはあったかい」 「だろうな...よくもまあ、こんなに手を冷たくして歩けるもんだ」 そう言いながら堺はポケットに手を突っ込む。もちろん、と手を繋いだまま。 「んで、何処行くよ?」 行き先を決めないのがこの2人だ。 普段の堺ならそういうことをきっちり決めていそうなのだが、結構ずぼらなときだってある。 というか、限定でずぼらだ。 捉え方によってはあまり良い気持ちにはならないかもしれないが、はそんな堺が好きだった。 だって、自分だけ特別と言う感じがするから。 「ゲーセン」 「却下、あそこうるさいだろう?」 「じゃあ、映画館」 「却下」 またしても却下だ。 「なんで?」と返すと「何が悲しくて2人で並んで黙って2時間くらい座っとかなきゃならないんだよ。時間が勿体ねぇ」と却下の理由を教えてもらった。 「そか。そうだね。じゃあ、良則の家」 「ん」 やっと採用になったらしい。 堺は先ほど此処に来るまできた道のりを再び戻ることにした。 堺がドアを開けた途端、「おじゃましまーす」とは堺の部屋に滑り込む。 「おい、こら」と止める堺を気にせず、すぐにエアコンのスイッチを入れた。 「お前んちかよ」 苦笑しながら堺が言い、彼はキッチンに向かう。 「コーヒーで良いな?」 「ココア」 の返事に小さく舌打ちをして堺は準備を始める。 「舌打ちは良くないですよー」 「だったらさせるな」 堺の返事には「ははは」と笑った。 窓の外を見ていると段々雲が迫ってくる。 「こりゃ、本降りになるぞ。大丈夫か?」 ベランダのガラス戸の前に立っているの傍に来た堺は彼女のマグカップを差し出しながらそういった。 「たぶん...」 一緒に住んでいるわけではないが、彼女専用のマグカップがある。 以前、2人で買い物に行った際、何気なく入った雑貨屋で彼女が一目ぼれをしたと言う。 白いベースに淡い青の雪の結晶の模様が入っているちょっと大きめのマグカップだ。 「これ、ほしいかも...」 5分くらいそのマグカップとにらめっこをしていたがそう呟く。 「職場だとか、家だとかにもうあるんだろう?」 「あるけど、ほしい。この惚れ具合は..良則に並ぶわ!」 彼女が真顔でそのマグカップを眺めながらそういった。 堺は盛大な溜息を吐いて、 「てことは、そいつは俺のライバルか?」 と問うと 「うっかりそうなっちゃったね!」 と肯定されてこれまた盛大に溜息。 堺がそのマグカップに手を伸ばしたことに、は驚いて堺を見上げた。 「俺んが良い男だってお前が分かるように、こいつを連れて帰ってやるよ」 そう言って堺がレジに行く。 会計を済ませて戻ってきた堺に「良則、一歩リードね!」とが言う。 「一歩だけかよ」と言った堺にが笑う。 「これ、ウチ専用な」 堺の言葉に「ありがとう」とは微笑んだ。 |
桜風
11.3.26
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