| 家の前までやってきた。 「やっぱ、時間が掛かったね」 が言う。 「滑らないように変に気を遣って歩いたからな」 「泊まってく?」とが言うと「さっき言っただろう?明日練習」と堺が言う。 「うん、聞いてた」 笑いながら言うに顔を顰めて繋いでいた手を離す。 途端にひんやりと掌の温度が下がる。 「じゃあな」と声をかけて堺が背を向けたところで、彼はまた振り返る。 「10日後、空けられるか?」 不意に言われたその言葉には苦笑した。 「何で普段はずぼらなのに、こういうことだけは細かいかなー」 何故10日後の話をしたかはもすぐに分かった。 「こそ、覚えてるじゃないかよ」 ばつが悪いのか、堺はすぐさまそう返す。 「ま。女の子ですから?」 「“女の子”って歳かよ」と返す堺に、は足元の雪をガッと掴んでえいっと投げた。 ポスッと音を立てて堺のコートにそれが当たる。 「凶暴な“女の子”だな」と笑って言う堺は「早く家には入れよ。んで、あったかくして風邪引くなよ」と言って歩き出す。 「良則、送ってくれてありがとう。あと、あったかくして風邪引かないでよ」 お礼を言って堺に同じ言葉を返すと軽く手を上げて彼が応えた。 家に帰って堺に言われたとおり暖かくする。 まずは風呂、と湯船に湯を張ってその間にコーヒーを淹れて温まる。 窓の外を見るとまたチラチラと雪が舞ってきた。 曇天だから風花ではないようだ。 「大丈夫かなぁ...」 こんなことなら、堺にお泊りセットを持って送ってもらうべきだった。 そしたら雪がズンズン降ってもうちに泊まってもらえばよかったんだから。向こうは通勤が辛いとか言いそうだが、こんな雪の中に帰るよりはマシなのではなかろうか... 風呂に入ってよく温まった頃、堺から電話があった。家に着いたという内容だった。 が心配しているだろうと思ってかけてきたのだ。 堺は結構口が悪いが、そういう気遣いは出来る。 『何だ?』 の機嫌がよさそうなので不思議そうな声を出す。 「ううん、無事に帰れたんだね。あ、あったかくしてる?」 『今風呂の準備中』と返ってきた。 「今の時期、風邪を引いたら馬鹿みたいだもんね」 の言葉に『ああ』と堺は返す。 しかし、堺はその“馬鹿”をやったことがある。 が立派なETUのサポーターになった頃には2人は仲良しだった。 お互い、それなりに意識はしていたがどうにも決定打に欠ける、そんな感じ。 もどかしい気持ちもあったが、最初が最初だっただけにどうにもきっかけが掴めないと言うのがその当時の2人だった。 別に、今の関係だって結構居心地が良いし... 「それはいかん!」 チームメートに言われた。 堺はげんなりとする。 人のことに口を出すな... 結局彼は元の鞘に納まったらしい。 どうせそうなるだろうと思っていた堺は何となくあの合コンを茶番に思えていた。 しかし、その茶番でに出会ったのだから悪くない茶番だったとそのときやっと思ったのだ。 「いいかい?男女の関係は簡単に、もろく崩れるんだ」 「何だ、もう元鞘が崩れ始めてるのか」 堺が言うと彼はグッと詰まって「バレたから」と言う。 「馬鹿だろう、お前」 彼が最近親しくなってきた女の子がいるのは知っていた。 「やめとけ」と何度も忠告をしたと言うのに、友人の忠告を聞かずに果てはバレて修羅場だそうだ。 「どーしよー」と縋ってくる友人に「さあな」と冷たく返して堺は家に帰るために駐車場へと向かう。 此処最近ちょっと調子が悪い。 何処がどう調子が悪いのかちょっとはっきりしないのが余計困った。 悪いところがはっきりしてたら病院に行くなり、対処のしようがある。それなのに、この状況はどうしていいかが分からず困っているのだ。 「...あいつ、妙に詳しいよな」 仕事とあまり関係ないと言うのに体のケアには妙に詳しい。高校のときのマネージャーってこんなだったか、と思うくらいに。 車を路肩に停めて電話をしてみた。 何回かコールをしたが出てこない。 「仕事か...」 呟いた堺は溜息をつく。 何だか途端にどっと来た... |
桜風
11.5.7
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