小春日和 7





見慣れた車を見かけた。

ハザードランプを点けて路肩に停まっている。

勿論、同じ型の車は一般にそこいらを走っている。

だが、色と言い、形と言い。ナンバーと言い...

これはどう考えても同じだ。

そう思ってはその車に近付き無遠慮に覗き込んでみた。

ハンドルに凭れているので顔は見えないが、この姿かたち、見慣れた人物そのものだった。

コンコンと窓をノックする。

ゆっくりと彼は顔を上げて、の姿を目にした途端、驚きの表情を浮かべる。

ロックを外したようなので、は助手席のドアを開けて中に入り込んだ。

「どうしたの?顔色があまりよろしくありませんが?」

口調はからかっているが、表情を見たら心配しているのは良く分かる。

「よくわかんねぇけど、体がダルイ...」

「風邪?」

「わかんねぇ」

本当にだるそうに堺が言う。

そんな堺の額に手を伸ばして体温を見る。

「ちょっとあるかも。ね、何処行くの?」

「帰る」

の問いには最小限の言葉で答える。

「運転しようか?」

「出来るのか?」

「さっき取得した」

満面の笑みを浮かべてそう言って免許証を見せてきた。

物凄く不安である。

「社会人になって取るって珍しいな...」

「まあねー。で、どうする?」

仕方ない、命を預けてみるか...

「頼むわ」と言って堺は運転席から外に出て、後部座席のドアを開け、そのままシートに寝転ぶ。

「これ、掛けてたほうが良いよ」とは自分が着ていたコートを渡す。

「悪いな」と言って受け取った堺は大人しく、掛けておくには少し小さいのコートを自分に掛けた。

の匂いがして、ひどく安心した。


「もっしもーし」

ゆっくり目を開けると目の前にの顔があった。

「一応、着いたよ」

「奇跡だ」と呟く堺に「失礼な!」とは返す。

見事に車庫入れまでしてある。

何度か堺の住んでいるマンションまで来たことあるし、駐車場の場所も知っていたので彼を起こさなくて済んだ。

「さすがに担いで上がれないんですけど?」

「そりゃ..そーだな」

力を入れて体を起こす。

が支えてくれて少し楽になった。

家に帰って、そのままソファに倒れこむ。

「こら、ベッドで寝なさい」と叱られてもそもそと起き上がり、そのままベッドに寝転んだ。

普段なら、外から帰ってきた服でベッドに寝転ぶなんて絶対にしたくないが、今はそれどころではない。

毛布を掛けてうとうとしていると「体温計の場所と薬の場所を教えてから寝て」とに言われて体温計のありかと薬は買い置きしていないことを伝えてそのまま眠り込んだ。


暫く寝ていたらしく、目が覚めたときにはとっぷりと日が暮れていた。

少し体は楽になったような気がしてリビングに出てみるとビデオを見ているがいて驚く。

「まだ帰ってなかったのかよ」

「明日は休みだからね。で、どう?起き上がれたってことはそれなりに回復したのかな?」

そう言いながらはキッチンに向かう。

「なんか食べて薬飲みなー。薬のアレルギーとかは?」

「ない」

「んじゃ、さっき薬局で買って来たからそれ飲んで」

そう言いながらが鍋に火を入れる。

「何作ったんだ?」

「ミルク粥」

「俺、それ嫌い」

「好き嫌い言ってると大きくなりません!」

母親みたいなことを言う。

今更大きくなれないとか言われても...

「ふうふうして、食べさせてあげるから」

は冗談で言った。

しかし、「わかった」と堺が素直に頷いたため、有言実行をせざるを得なくなる。

絶対に「要るかよ、そんなの」とか言われると思ったのに...


しかしまあ。体調を崩してしまうのは彼にとって凄くマイナスだろうが、にとってはそれなりに楽しい。

だって、こんな素直な堺は今までに無いのだ。

が粥を冷ますのを口を開けて待ってるし、熱がまだあるのか目が潤んでいる。

「ねえ、堺くん」

「んー?」

「可愛いよ」

「そーかよ」

ぶっきらぼうに返す堺はやはり恥ずかしいようでそっぽを向く。

「さっき、電話したんだけど」

不意に堺が言う。

「あ、うん。着歴みたらあったからビックリした。ごめん、気づかなかった」

「携帯の意味がねぇよ」

の言葉に堺が拗ねた表情を見せた。

「うん、ごめんね」とが謝ると堺は「良いけど」と呟く。

全然良くなさそうだ。

「ふふふ」と笑うに堺はばつが悪そうにしてそっぽを向いていたが、に顔を向けてまた口をあける。

「はいはい」と言いながら、は粥を冷まして堺の口にレンゲを運んだ。









桜風
11.5.14


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