| 結局、は泊り込みで堺の看病を行った。 朝起きてリビングにが寝ているのを見て堺は何とも言えない気持ちになる。 起こさないように毛布を掛けてシャワーを浴びた。 「おはよう。調子はどう?」 さっき起きたばかりなのか、がキッチンのコンロの前に立っていた。 「お陰さんで」と堺が言うと「よし」とが頷く。 「じゃあ、朝は普通に食べれるね。和食?洋食?」 「白飯」 「今日練習は?」 「午後から」 だったら、朝食はそこまで急いで作らなくて良いかな、とは安心した。 飲みたいと言うから堺の分もコーヒーを作る。 「しかし、ま。さすがのアスリートだね。一晩で治した」 「のお陰だって言っただろ」 ぶっきらぼうに返す堺だが、感謝の気持ちは伝わってくる。 「ま、そうね」と返すと「謙遜くらいしろよ」と堺が苦笑した。 のんびりと朝ごはんを食べて家を出る。 まだ早いのでは、とが言うと一応病院に行くと堺が言うので納得した。 「送ってく」という堺の厚意に甘えて車で送ってもらった。 の住んでいるマンションの前に着くと「ありがとう、助かっちゃった」と言ってドアを開けようとすると、「待った」と堺が言う。 「ん?」と振り返ったの目の前に見慣れたものがある。 見慣れたもの、と言っても似たような形状の同じ用途のもの。 鍵だ。 驚いて顔を上げると 「何ていうか、ケジメだよ。俺の彼女になってくれ、」 と珍しく赤くなっている堺が言う。 はぽかんとしてそれを受け取った。 「なんと言うか、律義者だ...」 「何だよ」と拗ねる堺に「いや、ほら...」とは言いよどむ。 一度深呼吸をして 「何か、さ。わたしたちって実質的にはお付き合いしているって言っても過言じゃないでしょう?だから、もう有耶無耶に恋人って言う関係なのかなー、って思ってたから」 「だから“ケジメ”って言っただろう?」 堺の言葉には嬉して微笑む。 「うん、ケジメ。堺く..良則らしいなって思って」 これまでどおり“堺くん”と呼びかけて直した。先ほど自分も名前で呼ばれたのだから、と。 の言葉に堺は照れたようで視線を逸らした。 「じゃあね」 「おう」 いつもどおりの挨拶。 恋人同士になったからと言って何かが変わるとは思えない。 それだけ、自然体でいられた相手だ。 「おっと」と言ってが戻ってくる。 助手席ではなく、運転席の方に回って窓を開けるように仕草をした。 「どうした?」 窓を開けてそう声を掛ける。 「いってらっしゃーい」 逃げるようにはマンションの中に消えていった。 「あんにゃろ...」 にキスされた額を押さえて堺は唸る。 まさかこんなことをするためにが態々戻ってきたとは思っていなかったので自分は物凄く無防備だっただろう。 早速先手を打たれた気分だった。 ***** あの大雪の日から10日後。 は堺の家に向かった。 あのケジメをつけた日が今日なのだ。 は指折り数える。 あら、もうこんなにも... 堺との“付き合い”が長いということに今更驚く。 いつも特に見栄や気を張ることなく自然体で一緒にいられる存在。 騙されて連れて行かれた合コンで出会ったにしては出来すぎた相手だと思う。 インターホンを押しても返事が無い。 もらっている合鍵でドアを開ける。 外から見たときに気付いてはいたけど、部屋の電気がついていない。 時計を確認する。時間は間違っていない。 携帯を確認する。特に連絡は無い。 どうしたんだろう... 色々ずぼらだったりするが、時間だけは守る。 「何かあったのかなぁ...」 呟いてぞっとした。 しかし、堺に何かあれば彼のチームメイトが気を利かせて連絡をくれるだろうし... まあ、気長に待とう。 そう思ってリビングの電気を点けた。 テーブルの上には小さな箱があり、その下に「へ」と書いてある紙が敷いてある。 つまり、これは自分への..プレゼント? しかし、この箱の形状、大きさを考えると... 早打ちの鐘と化している心臓辺りの服をぎゅっと掴んで一度深呼吸をしてそれを手に取った。 震える手を見て可笑しくなる。 中に入っていたものはが想像した、期待した通りのもの。 指輪だった。 「もらってくれるか」 「うわぁ!」 いつの間にか部屋の中に堺の姿がある。 「いつ帰ってきたの?」 「最初からいた」 堺の言葉に心底驚いて、呆れては不機嫌そうに箱をずいと堺に向けて差し出した。 堺の目が見開く。断られた、と彼は思ったらしい。 「嵌めてくれないの?」 の言葉に堺は安堵の息を漏らす。 「性格悪いぞ」 「どっちが」 そんなやり取りをしながら堺はそっとの指に指輪を嵌めた。 |
桜風
11.5.28
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