| 秋の深まりを感じる風が頬を撫ぜていく。 「さーむいー」 首を竦めてそう呟いた。 「ちゃんとマフラー巻きゃいいだろう」 ぶっきらぼうに言いながら隣を歩く堺が彼女の首に巻かれているマフラーを少し調整した。 彼の左手には、近所のスーパーの買い物袋がある。 「良則、寒くないの?」 「寒いっちゃ寒いが...」 騒ぐほどではないと言う。 「頑丈だねぇ」 「当たり前だ」 それもそうか、とは肩を竦めた。 「ねえ、手を繋ごうよ」 「俺の体温取られるから嫌だ」 「ケチケチしない」 そういいながらはほぼ無理矢理と言った感じで堺の手を握る。 「ったく、毎回言うけど、冷たいな、の手はよ」 「女性は冷え性なんです」 「そーですか」 適当に返す堺に「えい!」とが手を伸ばして頬に手を当てる。 「冷てぇ!」 声を上げる堺に「ふっふっふ」と得意気にが笑う。 右手はに握られ、左手は荷物。反撃できない。 「帰ったら覚えてろよ」 「今日は良い夫婦の日だから、ご飯作って」 今朝、突然が堺にリクエストした。 元々、結婚する前から自分のフィジカルを気にして料理は頻繁に行っていたため、レパートリーはかなりある。 「別にいいけど」 と料理の腕に自信があったこともあり、軽く頷いた。 どうせ作るなら、物凄く凝ったものを作りたいと思った堺は、昼過ぎに近所のスーパーに買い物に出たのだ。 勿論、面白そうだからと妻がついてくることも予想済みであった。 近所のスーパーは意外と食材が揃っている。 家を決めるときに、近所のスーパーの食材の種類に拘ったので揃っていて当たり前なのだが、それでも業務用でもないのに、この品揃えは何処の階層をターゲットにしているのか疑問が沸く。 帰宅して、ダイニングのテーブルに先ほどスーパーで購入してきたものを置く。 早々に、手洗いうがいを済ませた。 風邪を引くのは拙い。体調管理は必須だ。 勿論、も自分から堺に風邪を移す事になったら拙いと思っているので、かえって真っ先にするのは手洗いうがいで、それを知っているの友人達には「小学校の先生が生徒に対して『お手本です』って示したい夫婦だね」と言われたことがある。 確かに、小学生時分担任の先生などに口をすっぱくして言われた。 「下拵え、手伝おうか?」 堺がキッチンに立つとが声をかけてくる。 「いい。邪魔んなるから、テレビでも見てろ」 素っ気無く言われては拗ねるようにリビングのテレビを点けた。 暫くして「」と堺がキッチンから呼ぶ。 「なに?」 やってきたは嬉しそうで尻尾を振る子犬を連想させる。 「味を見てくれ」 そう言って堺がに箸を渡そうとしたが、は口をあける。 「おい」 「あーん」 目を瞑って口をあけるに盛大な溜息を吐き、彼女の下唇にキスをした。 「良則?!」 「何だ、違ったのか?」 しれっと返す堺には少し拗ねた様子を見せた。 肩を竦めた堺は改めて彼女の口に味見のために調理したものを口の中に運ぶ。 もぐもぐと咀嚼した彼女は堺を見上げた。 「どうだ?」 に問うと「うーん」と唸っている。 そんな複雑な味だったかな、と思って首を傾げていると 「隙あり!」 と言ったが背伸びをして堺の唇を奪った。 「美味しかった!」 そう言ってリビング戻っていく。 「おい、今の『美味しかった』はどっちだ?!」 を追いかけてリビングに向かうと彼女は振り返って「ナイショ」と言う。 何だか、未だに彼女に勝てない自分に溜息を吐き、堺はキッチンに戻っていった。 |
桜風
11.11.22
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