| 村越とは高校の入学式で出会った。 掲示されているクラス別けを見ていると隣に立った女子が声をかけてきた。 「ねえ、って何組にある?」 突然声を掛けられて驚いたが村越は彼女の名前を探し、「5組だ。出席番号は12番」と答える。 「ありがとう。えーと...」 高校は名札が無いので、名前を勝手に覚えることが出来ない。 「村越だ。隣のクラス、4組だ」 「よろしく、村越くん」 が手を差し出す。 少し驚いた村越だったが、彼女の手を取り、握手に応じた。 「よろしく」 今日の練習は午後からだった。 体を起こして伸びをする。 時計を見るといつもの起床時刻より少し遅い時間だ。 ベッドから降りてカーテンを開けた。 今日は土砂降りらしい... 高校の入学式の夢。 懐かしい... ここ数年、過去の夢といえば自分の所属するチームの過去ばかりだった。 自分が入団したときとか、二部に降格したときだとか。あまりいい夢ではない。 久しぶりに、何だかいい夢を見た気がした。 昨晩、結局後輩たちに根掘り葉掘り聞かれた。しかし、結局彼らの期待したような仲ではないの話。表情を見たら、満足できなかった様子がよくわかった。 そうは言っても事実なのだから仕方ない。 彼女とは恋人同士になったことはない。 だが、自分の一番の理解者だと思っていた。向こうも、おそらく。 お互い高校生活の中で恋人と呼べる存在が出来たこともあった。 しかし、結局自分はパートナーであるはずの恋人よりも友人であると一緒にいるときのほうが楽だったし、心が落ち着いた。 思い切ってにそれを言うと彼女も笑いながら「あたしも!けど、落ち着くってことは恋じゃないってことよね」と返していた。 おそらく、そうなのだろうと当時は思っていた。 耳にする恋と言うのは、色々と面倒なことが多くて相手を理解できないからこそのものだと思うようなことだった。 その点、は違った。 話をしていてもそんなに気を使わないし、何となく相手の考えていることが分かった。 落ち込んでいるな、とか、何か嬉しいことがあったな、とか。 も同じように村越に「今日、何かいいコトあったでしょ?」と聞いてきたり「話くらいなら聞けるよー」とふらりと声を掛けてくれたりした。 そんなだったから、村越とは付き合っているとか噂が立ったり、二股をかけているとか言われたりした。 お互い、恋人が居るときにはそういわれないように距離をとっていたのだが、それでも中々恋人とはうまく行かなかった。 一度だけ、が軽い口調で「付き合ってみようか」と言った。 だが、村越はそれに頷けなかった。このままの関係がお互いいちばん良いと思っていたから。 そんな村越を見ては笑った。 「ま。あたしも村越とキスしたいって思わないからね」 「明け透け過ぎるだろう」 苦笑して村越が返す。 彼女は国際学部のある女子大に進学した。 だから、村越とは高校でお別れとなった。 卒業式の日、村越は部活の後輩や、初めて目にする後輩などに囲まれていた。 その横をが通り抜ける。 「」と思わず呼び止めていた。 彼女は足を止め、村越の状態を見て笑った。 「モッテモテー」 からかい口調の彼女に苦い表情を向け、彼女に向かって足を進めると人垣が割れて道が作られた。 「何だ、もう帰るのか」 「うん、野球部の追い出し会は後ほどだし」 彼女は頷いた。 そして、村越に向かって手を差し出す。 「3年間、ありがとう」 村越は彼女の手を握った。 「お互い様だ」 握ったの手を話すと「じゃあ、村越。また、いつか」と彼女は軽く手を上げて正門を出て行った。 彼女が言う「いつか」というのが昨日だった。 「そうか...もうそんなに経つか...」 ふと思い出して村越はそう呟いた。 |
桜風
11.6.25
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