| 午後の練習に間に合うように家を出る。 今日は土砂降りなので、外での練習は控え、室内での練習のみとなった。 若手達は外で体を動かしたいらしく、雨雲を見上げては恨めしそうな視線を向けている。 「お前、フィジカル弱いんだから今のうちにきっちり鍛えとけよ」 と黒田が偉そうに言っている。 言われたのは赤崎のようで、賑やかになる。 此処は小学校か... いつもなら止めるが、面倒くさい。 自分の練習をさっさと済ませて今日は帰ることにした。 いつもなら止めに入る村越が止めない。 黒田も赤崎もそれが少し不気味だったのか、結局喧嘩は早めに収まった。 着替えてクラブハウスを後にしようと玄関に向かう途中にホワイトボードがある。 『来月のサイン色紙』というタイトルの下に自分の名前があった。 村越は事務室に向かった。 ノックをして顔を出す。 「あ、村越さん」 「ホワイトボードを見たんだが...」 「ありがとうございます」と声を弾ませて有里が立ち上がった。 事務室内も有里以外は何だか覇気がない。 まあ、有里はいつも覇気があって、寧ろありすぎて偶に怖いときがあるが... 頼まれたそれにサインをして事務室を後にした。 今朝は土砂降りだったのに、今は小康状態のようだ。 余計に先ほど恨めしそうに雨雲を見上げていた若手が賑やかになっているだろう... 車を走らせ、時間を見ると少し早い時間だった。 屋内練習だと偶にこういうこともある。 少し悩んだが、寄り道をして帰ることにした。 近郊の大型ショッピングモールまで足を伸ばす。 元々、家に物は多く置いていない。物を置くのが好きではないと言うのはある。 しかし、それで偶に不便に思い、そのときに物を買うのだ。 今回も此処数日前から収納アイテムが欲しくなっていた。物は増やしていないはずなのに、何故か必要な収納場所が増える。どういうことだ... 駐車場に車を止めてモール内を歩く。 そうか、と呟いた。 人が少ないのは、今日は平日だからか... 試合のスケジュールは頭に入っているが、それに関連して平日か休日かは頭に入ってこない。 必要ないから。 まあ、ただ。デーゲームが入っている日は休日だと言うことは分かる。 とにかく、あまりカレンダーと言うものが必要ない職業だなと思うときが結構あるのだ。 暫くモール内を歩いていて「しまったな」と呟く。 どうせならホームセンターだったな、と。 こんなオシャレなところで購入しなくても、収納できればそれで足りるのだから、種類が豊富なところに行ったほうがよかった。 今から行くか、と時計を見ると目の前で店員らしき女性が見事なすっ転びを披露ししてくれた。 こける瞬間、「うぎゃ!」と可愛らしくない声を漏らした彼女の声に聞き覚えがあり、村越は足を向けた。 アーケードの下だから地面が濡れていないのが、彼女にとっても不幸中の幸いだっただろう。 「大丈夫ですか」と声を掛けると「はい、申し訳ありません」と彼女が顔を上げた。 「やっぱり」と村越が呟く。 見事なすっ転びを披露してくれたのはだった。「うぎゃ!」に聞き覚えがあったのだ。 「あら、あっという間の『いつか』になっちゃったね」と彼女も笑う。 村越の手を借りて立ち上がった。 「擦りむいてるぞ」 膝を指差すと「ああ、うん」と少しバツの悪そうな表情を浮かべる。 散乱した商品を拾い上げて彼女に渡す。 「何でもないところで躓くのは相変わらずだな」と苦笑して言う村越に「そんなつまんないこと、忘れてよ」とがそっぽを向く。 村越は先ほどの可愛らしくない声のことは指摘しない。余計にムキになるだろうし。 「今日は仕事ないの?」 が見上げてそう言う。 「いや、今日は早く終わったからな」と村越も応じる。 「そっか」と呟いたは「はい、ちゃんと記憶してね」と言って11桁の数字を口にした。 「あたしの携帯番号。ご飯を奢りたくなったら電話して」 笑って言う彼女に「じゃあ、今晩どうだ?」と村越が言う。 「番号、活用してよ」 文句を言うに「都合はどうだ?」と村越が聞く。 「悪くないけど、ちょっと遅くなると思う。明日の仕事とか、大丈夫?」 明日は練習は午前からだったか... 難しそうな表情を浮かべた村越に「ま、昨日の今日だし。せっかくだけど日を改めよう?」とが提案した。 仕方ない、と村越は頷く。 「じゃあね、村越。またね」 そう言っては駆けていった。 「...こけるぞ」 村越が苦笑して呟いた途端「うぎゃ!」とまた変な声を漏らして彼女がこける。 足を向けようとしたが、今度は近くの店の店員が出てきて彼女がばら撒いた商品を拾うのを手伝っている。 村越は肩を竦めて駐車場へと向かった。 |
桜風
11.7.2
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