また、いつか 5





その日、の職場では親睦会が開かれた。

サッカーの観戦だそうだ。

野球派だった自分としてはあまり馴染みはない。

仲が良かった同級生がサッカー部のキャプテンだったから、高校時代はそこそこ高校サッカーは観戦していたつもりだが、卒業してからはぱったりと興味を失った。

たぶん、自分が興味を持っていたのはサッカーではなく、サッカーをプレイしていた彼だったのだろう。


スタジアムに着くと、緑色のユニフォームを渡された。レプリカユニフォームで、それを着ろと言うのだ。

どうも今の職場にはサッカーファンが多く、野球派の自分の肩身は狭い。

自分達が着ているユニフォームが会場のスタンドを埋め尽くす中、一角だけ違う色のユニフォームを着た人たちが固まっている。

どうやら、対戦相手のユニフォームらしい。

えーと、何々?『TOKYO VICTORY』というのが、自分が応援を強制されるチームで、相手が『ETU』というのか。イースト・トーキョー・ユナイテッドの略。

なるほど、とは納得した。

選手の紹介があり、は思わず「ワオ」と呟く。

相手チーム、ETUのキャプテンが村越茂幸だった。ピッチに立つ彼は間違いなく、先日再会を果たした村越なのだ。

しまった、困った...

こんなところを見られたら絶対に気分を害される。せめてユニフォームを脱ぐべきか...

そこまで考えてハタと我に返る。

何故こんなに動揺するのだろう?

別に疚しいことはしていない。

確かに、村越とは友人関係であるが、別に自分が何処のチームを応援しようと勝手だ。

昔馴染みとしてはあまり歓迎できない状況だろうが、かと言って仕事の人間関係が絡んでくる状況に口出しをされるほどの深い関係でもない。


初めて見るプロの試合は、手に汗握るものだった。

どうやら、自分が応援しなくてはならなかったチームは昨年の優勝チームで、しかし、今期の成績は低迷していたらしい。

対して、村越の所属するチームは基本的に強くないのだが、今年は何かといい試合をするのだとか。

監督が変わったのが大きいと一緒に観戦している職場の自称サッカー通が言っていた。

良く分からないが、村越は上手くなったと思う。

そりゃ、自分の知ってる村越は高校サッカーで止まっていて、彼はプロになってから10年以上経つから、10年間プロを続けられただけでもたぶん、凄いのだ。

そして、キャプテン。

面倒見の良さはきっと相変わらずなのだろう。

先日のショッピングモールでのやり取りを思い出す。


試合は結局ドローだった。

勝てる試合だったとの周囲は言っていた。

しかし、はほっとしていた。

そして、ピッチに立つ村越の表情は険しいものだった。



その試合観戦をした日から数日後、村越から電話がかかってきた。

以前流れた食事のお誘いだ。

どうやら、サッカーの試合は一時休戦となるらしい。リーグの半分で一度休憩をして後半戦が始まるのだとか。

先日購入してみたサッカー雑誌にそう書いてあった。

日時を調整しては村越が指定した店に向かった。

先に来ていた村越は案内されて来たに軽く手を上げた。

食事をしながら何気ない風を装って「そういえばさ」とが言う。

「何だ?」

「この間、初めてサッカーの試合を見たの。プロの」

「へえ」と興味なさそうな声で応じた村越だが、彼が内容に興味を示しているのはわかる。

わかる自分が何だか少しだけ嬉しかった。

「ほら、東京ダービーっての?村越ってプロだったんだね」

の言葉に村越は目を丸くした。

「知らなかったのか?」

「ああ、うん。学生のうちに留学してそのまま向こうで結婚したから、こっちの情報が殆ど入らなかったのよ。向こうは日本サッカーに興味が無いみたいだし」

なるほど、と村越は納得したようだ。

「まあ、あたしは相変わらずの野球派だからたぶん、中継があっても見なかったと思うけど」とさらにが付け足すと村越が苦笑する。

「野球か...アメリカだったか?」

が住んでいたのは欧米と聞いたが、アメリカとも聞いたような気がする。

「ううん、カナダ。けど、アメリカに近いし、結構球場まで足を運んでたんだ」とが嬉しそうに答える。

「本場だもんな」と村越が言うと「そうなの!」とが食いついた。

暫く過去の話に花を咲かせていたが、「そういえばは何の仕事をしているんだ?」と村越が問う。

あのショッピングモールのショップの店員だろうか...

「デザイナー」と返されて目を丸くした。

「デザイナー?」と鸚鵡返ししてしまうくらいには驚いた。

「うん、そう。モールで会った時は急ぎで打ち合わせがあったから」

「それをあんなに派手にばら撒いて良かったのか?」

からかうように言う村越に「大丈夫です!」とがムキになって返す。

の相変わらずの反応を目にした村越は目を細めた。


不意に見せた村越の表情にの心臓が跳ねる。

いつまでも変わらない、と思っていたそれはいつの間にか変わっていたようだ。

?言い過ぎた、悪かったよ」

突然黙りこんだが怒ったと勘違いしたのか村越は素直に謝罪する。

「仕方ない、許してあげましょう」と尊大にが言いその反応に村越は苦笑した。









桜風
11.7.9


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