| 空港に降り立った彼女は空を見上げる。 空は世界中どこに居てもつながっている、ひとつだということを言う人はいるが、やはり国によってその色や空気感は違う。 街並みを反映しているのかもしれない。 だとしたら、空港なんて、滑走路があり、ターミナルがあって何処も同じなのではないかと思うが、感じる雰囲気が違うのは、そこに居る人たちの空気の差なのかもしれない。 「んーーー!!」 伸びを一つ。 久々に帰ってきた故郷だ。 そんなに長い間滞在するつもりはないが、少しくらい羽を休めてもいいだろう。 実家に前もって連絡をしていなかったため、親には怒られた。 そして、「部屋はないよ」と言われて絶句した。 その言葉のとおり、自分の部屋だったそこは物置になっている。 「リビングでいいので、泊めてください」とお願いしてみたが、すげなく断られた。 実家に自分の居場所がないとはどういうことだろう、と思いながらため息を吐く。 (ウィークリーマンション、空いてるかな...) ひと月も滞在するつもりはないが、ホテルだとちょっと辛い。 まあ、探せば安く長期滞在できるところがあるかもしれないが、マンションを探してみることにした。 不動産屋で契約手続きをしているところで目にしたのは事務所内のテレビで、番組はこの国のプロサッカーチームの試合だった。 ベンチの様子が映り、彼女は思わずテレビに向かって前のめりになった。 「お客様?」 目の前に座っている担当者が訝しげに声をかけてきた。 「ああ、すみません。え、と。ここでしたっけ?」 氏名欄を指すと「はい、お願いします」と言われてそこに「」と書く。 住所は、実家の住所を書いた。 手続きのため、担当者が一旦席を外す。 「サッカーがお好きなんですか?」 先ほどのの反応を目にしていた事務員が声を掛けながらお茶を出してきた。 「あ、はい。いえ...」 の反応に事務員はどう返していいかわからず、「もう少しお待ちください」と言ってその場を去っていく。 サッカーは特に好きではない。好きじゃないというか、まあ、あったら見るが積極的にみることはない。 ただ、反応してしまったのはベンチに知っている者の顔があったからだ。 (そういや、日本に帰るって言ってたっけ?) あの時はこちらがとても忙しい中、ふらっとやってきて「俺、日本に帰るからー」と軽く言われて「あっそう」と返すしかなかったのだ。 今考えてみると、挨拶をしに来ただけでも凄いことだ。 あの男が、挨拶をするなんて... 借りた部屋に荷物を置いて、ひとまず散歩に出てみることにした。 久々の故郷はどんなふうに変わっているか、気になったのだ。 ぷらぷらと散歩をしてみると、やはり景色が変わったのがわかり、少しだけ寂しさを覚えた。 何の気なしに足が向かったのは、地元サッカーチームのクラブハウス。 ここの景色はそう変わらない。 懐かしさを覚えていると、練習見学に来ていたらしい子供たちが沸く。 練習を終えた選手たちがクラブハウスに戻るようで、そのタイミングを見計らってサインを求めに走って行った。 選手たちは疲れているだろうに、求められたサインに応じていた。 (スポーツ選手って大変だなぁ) そういえば、あの男はどうした? 背伸びをして探してみる。 だが、姿が見えない。 早々に引っ込んだのだろうか... 「あれ、」 真横から聞こえた声に反応して顔を向けると、探していた人物がそこにいた。 「うわぁ!」 「なんだよー。人をバケモノみたいに」 口をとがらせていう。 これで35歳なのだ。何かが間違っている気がする。 「、何してんの?」 「いや、テレビで達海見たから」 そう言う彼女に「テレビ?」と首を傾げた。 地元の不動産屋だったので、もしかしたらケーブルテレビだったのかもしれない。 少なくとも、今日試合があったわけではなさそうだ。 「どこだったんだろう。赤ユニフォームと試合してたよ」 「あー、こないだのかもな」 ガシガシと頭を掻いて言う。 「達海!サインくれよ!!」 子供たちが群がってきた。 「えー、めんどい。、書いてよ」 「相変わらず湧いてんね」 半眼になって彼女が言うと達海は「ニヒー」と笑う。 「も相変わらず性格キツイね」 と返されて彼女は言葉を失った。 めちゃくちゃ反論したいが、足元には首を傾げている子供がいて。 流石に耳に毒だと思い、諸々の言葉は飲む。 それを計算済みだったかもしれないと思うと腹立たしい。 「なー、達海。この姉ちゃん誰?」 「このおばちゃんは」 「あ?!」 思わずドスを効かせた声を出してしまった。 子供はビクリと震えたが、 「この怖いお姉ちゃんは俺の高校時代の友達」 と達海が答えた。 「達海と同じ年ってことは、やっぱりおばちゃんじゃん」 そう言い放った子供ににこりとほほ笑み、は拳を作った両手を彼の左右のこめかみにそれぞれ充てて 「何か言ったかな、小僧?」 と言いながらぐりぐりと押しつけた。 「ごめんなさい〜」 子供の謝罪を素直に受け取り、 「いい?将来、ためになる事を教えてあげる。 どんな年でも、女の人には「お姉さん」っていっとけば大抵許してもらえるからね」 とアドバイスをした。 「わ、わかった...」 そう言って子供が頷く。 「ははっ。まあ、こいつがいじめちゃったから仕方ないね。後藤のサインをやろう」 「何故自分じゃない!」 のツッコミに「ははっ」と軽く笑った達海はクラブハウスに向かって行った。 「あー、。連絡頂戴ねー」 「あんたが寄越せ」 「だって、俺、の連絡先知らないもん」 「名刺渡したよね!!」 が言うと「ははっ、なくした」と軽く返す。 「ったく...」 悪態をついたを見上げた子供が 「お姉ちゃん、達海の恋人なの?」 と声をかけてきたが、これには思わず「ああ?!」とやはりドスの効いた声を返してしまう。 怯えた子供の様子を見て反省し、 「違うよ。まあ、友達だね」 と返した。 |
桜風
15.2.12
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