| はロンドンでフリーランスのライターをしている。 なるべく年1回は帰省するつもりで仕事をしているのだが、ここ最近は帰国できていなかった。 だから、親は余計に冷たいのだと思う。 達海猛とは高校時代の友人だった。 適当な達海に呆れるものも少なくなかったが、それはそれで何故か友人も多く、不思議な存在だった。 言い方が力の抜けるものであったため、“適当”に思われがちだったが、内容はしっかりと信念のようなものを持っていたため、きちんと彼に向かい合っていれば“適当”には感じなかったのかもしれない。 そして、適当に感じなかった者の一人がだった。 1年の時は委員会が同じになり、話をする機会があった。 2年になって同じクラスになり、3年は進学組と就職組でまたクラスが別れた。 クラスが別れても、廊下でばったり会えば少し話をしたり、足圧を交わしたり。 たまに忘れた辞書を借りたりとそれなりに親交のある友人だった。 高校3年になって、達海が地元のクラブチームに入団が決まった時には、彼を少し遠巻きに見ていた者たちも突然友人顔をするようになり、「いやー、現金だよなー」と彼は笑っていた。 達海は、良く言えば“大らか”で、言葉を選ばなければ“大雑把”というのも、の評価だった。 大学は地元ではなく、家を出た。 慣れない一人暮らしに苦労しながらも、年に1度の高校時代のクラス会には顔を出していた。 何故か、高2のクラス会。確かに、クラス全体が仲良かったとは思う。 あとは、きっと達海目当てだったのだろう。 進んで幹事をしていた元クラスメイトが有名人と知り合いというのを維持したかったのかもしれない。 下心の見え隠れするクラス会ではあったが、それなりに楽しめた。 達海が代表に選ばれるようになった頃、はイギリスに留学した。 “留学”という響きがかっこいいというその理由だけで決めたものだが、得るものが多く、大学は中途退学してそのまま住み着いてしまった。 文化や言語が違うが、そこで生活をすることが楽しく、充実した生活を送っていた。 帰国をするのに交通費だけでも結構かかることから、故郷への脚は遠ざかり、年に一度のクラス会にもでなくなった。 そんなある日、地元新聞で見た記事に「おお?!」と声を漏らした。 達海が移籍してくるというのだ。 何処か故障があったと聞いたが、それでも彼を欲しいというクラブチームがあったのだ。 「へー、ここでも人気者か...」 ポツリと呟いたの口角は少しだけ上がっていた。 しかし、そうはいっても英国と一言で言っても、広いわけで。 だから、再会なんてものはないと思っていた。まあ、試合を見に行ってみようかなくらいは思っていた。 仕事を終えて帰宅する途中、駅近くのパン屋に寄った。明日の朝ご飯だ。 食事はなるべく自炊にしている。口に合わなきゃ自分で作るしかない。 食はとても大切だ。 「よー、久しぶりだなー」 店の中で軽く声を掛けられた。 「あー、どうも」 結構真剣にパンを選んでいた時だったので、相手の顔を見ずに適当に返したが、ふと自分が口にしたのが日本語ということに気づき、顔を上げる。 「ニヒー」と笑うのは高校時代から変わらない。 「え、達海?!」 「何だよ、気づかないのに返事してたのかよ」 「まあ、パンに夢中だったから」 そう言って目星を付けたパンをトングで挟む。 「俺もそれ食べたい」 「は?」 冷ややかな声を出したにもかかわらず、達海はのトングを取って、もうひとつトレーに乗せた。 「ほかにおすすめって何?」 「私もここ初めて。だから、時間かかってるの」 「あー、ってば好きなものはそのまま好きだもんなー。飽きない」 「あんただって、サッカーに飽きてないんでしょ」 そう返すと達海は一瞬だけ困った表情を浮かべ、 「ま、そうだなー」 と同意した。 「で、達海はこれだけ?」 「うん、それでいいよ」 「じゃあ、はい。会計はまとめるけど、金を出せ」 片手でトレーを持ち、聞き手をグッパと広げる。 「えー、のおごりじゃないの?」 「何で私より稼ぎのいいあんたに奢らにゃならんのだ」 そう言うと 「稼ぎよりもここでの生活の先輩じゃん」 と返される。 「あんたって、意外と口達者だよね。昔から」 ため息交じりにそう言って達海からの集金を諦めたはレジに向かった。 |
桜風
15.2.19
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