曖昧な約束 4






 達海と再会して間もなく、彼の出場する試合があると聞いてはなんとかチケットを取って見に行った。

サッカーのルールはイマイチわからず、なぜホイッスルが鳴ったのか理解できない場面があった。

ただ、試合中。

間違いなく正しく理解できた場面があった。

達海がけがをして退場をした。

足のけがは、もしかしたら治っていなかったのかもしれない。


達海の連絡先が分からなくてこれほどよかったと思うことはなかった。

知っていたら電話をしていたかもしれない。

電話をして、そして電話口で沈黙して、達海に気を遣わせていたかもしれない。

何を言っていいのかわからない。何を言ったらいいのかわからない。

そのシーズンの途中で達海がチームを退団したというニュースだけ、耳に入った。



季節が廻り、再びあの試合を見た季節になったある日、知らない番号から電話がかかってきた。

不審に思いつつも出てみると

『よー、元気かー』

という能天気な声が耳に届いて思わず「ああ?!」と機嫌悪く返してしまった。

「達海?!」

『おー。久しぶりだな』

そう返ってくる声はいつも聞いていたそれと変わらない。

「どうしたの。今どこ」

『前にに会った駅のあたり。パン屋の』

「私、引っ越したからそこ行ってないんだけど」

『来りゃ良いだろう。じゃあ、1時間後にあのパン屋な』

「待て。無理」

慌てて止める。物理的に無理なのだ。

『じゃあ、どれくらい?』

「その倍はかかる」

『じゃあ、2時間後ね』

そう言って達海が電話を切った。


「あんた、相変わらずマイペースね」

店に入って店員と話をしている達海を見つけてが声をかけた。

「そー?なあ、このパン新商品だって」

「あ、そうなんだ」

そう返したは「違う」と自分にツッコミを入れて

「あんた、突然連絡を寄越してどうしたの」

と今回の連絡の意味を聞いてみた。

「まあ、退院して、リハビリも一区切りついたからさ」

すでにが知っているものとして達海が話す。

「そう。まあ、松葉杖ついてないし、マシになったみたいね」

「うん、マシになった」

「治りはしないんでしょ?」

が言うと達海は苦笑した。

「うん、治んない」

「そう。これからどうするの?達海は選手として買われたんだよね?」

「まあ、そうだなー。取り敢えず、パン買って出よう」

そう促されても自分の明日の朝食用も含めていくつかパンを選び、精算して店を出た。

近くの緑地帯に腰を下ろした。

「で?どうしたの。今何してるの?」

が問うと、隣でパンに齧りついている達海が「えっとねー」と口の中をパンでいっぱいにしながらしゃべり始める。

「わかった。先に食べよう」

食べるかしゃべるかどっちかに、と言えば「じゃあ、食べる」というに決まっている。

自身も少し空腹を感じていたので、話を聞くのはそれからにしようと思った。

空腹を解消して隣に座る達海に視線を向ける。

「話す気になった?」

「俺は別に話さないとか言ってないし」

そう言いながら達海が苦笑して「まあ、それなりに」という。

「それなりに?」

「リハビリに一区切りがついたって言っても、まだ完全に終わったわけじゃないしね。それを続けながらフットボールにかかわって行いこうかなって」

「できるの?」

「形にこだわらなきゃね」

その言葉にどう返していいかわからず「そう」とは返した。

「あ、そうだ。達海。これ」

そう言ってが紙片を渡す。

「前にもらったじゃん」

「よく見てごらん」

から受け取った紙片、名刺を見て「へー」と達海は声を漏らした。

「クビになったんだ?」

「ちがう。独立したって言ってよね」

「フリーで独立って言われてもねー」

達海の指摘に言葉を詰まらせたはコホンとわざとらしい咳払いをする。

「まあ、何か欲しい情報あったら言ってみてよ。安くしとくよ」

「金取るの?」

「場合と内容による」

「あと、の生活状況だろう?」

余計なひと言にヒクリと頬を引き攣らせたは「あんた、ホント一言多いよね」と苦々しく指摘した。


それから時々達海から連絡があり、食事をしたり情報を提供などをしていたが、今年に入って達海が突然こう言った。とても軽く。

「俺、日本に帰るからー」

「あっそう」

忙しい時に何言いに来てるんだ、というのと、やっとか、というのが何となくその場で浮かんだ感想だった。









桜風
15.3.5


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