空が青いから 1





からっと晴れた青空を見ると思い出す人が居る。

「空が青いから」と言って彼女はよく笑っていた。

理由にならない理由だが、確かに空が青いと何でも出来そうな気がする。

けれど、それ以上に、きっとそれは彼女の言葉だったからそう思えたに違いない。


コンビニからの帰り道、コロコロとボールが足元に転がってきた。

すぐそこに車道という場所でこれは危ない、と思って視線を向けると5歳くらいの男の子がじっと見ている。

おそらく、このボールは彼のだろう。

杉江はその少年が居る公園に足を向けた。

「こんにちは」としゃがんで声を掛ける。

自分が長身なのは重々承知だ。

高校時代、自分が所属していたサッカー部のマネージャーに「首に優しくない」といわれ続けた。

首に優しくないとは個性的な表現である。

しゃがんでも少年よりも背が高い自分にちょっと呆れつつ、「お母さんは?」と聞いてみた。

平日の昼日中、おそらく母親と一緒に来ているのだろうと思ったのだ。

「いない」

いない、と来たか。

「じゃあ、君は一人で遊んでるの?」

「ちょっと買い物に行くからって。僕、ここで待ってれば良いんだって」

それにしても危ないだろう。

昨今、色々と子供を相手にした気分の悪くなる事件が増えてきていると言うのに...

「俺、杉江..勇作。君は?」

苗字だけにするかと悩んだが、小さい子には下の名前のほうが良いかもしれないと思って、結局フルネームの自己紹介だ。

「僕、ユーイチ」

「ユーイチくんだな」

彼は名前だけを返してきた。

「お迎えが来るまで兄ちゃんと遊ばないか?サッカーは得意だぞ?」

そう言って立ち上がり、ユーイチのサッカーボールで軽くリフティングする。

ちゃんも出来るよ」

誰だ、それ...

一瞬考えた杉江だったが、「そっか。ちゃんはすごいね」と返す。

暫くサッカーボールで遊んでいると「ユーイチ!」と猛ダッシュで女性がやってきた。

ああ、お迎えかなと思って足元でボールを止めた。

そして、杉江はそのまま呆けた。


「あんた、向こうで待ってなって言ったでしょ!」

腰を折って視線をユーイチにあわせて彼の額を軽く小突くこの人を杉江は知っていた。

彼女は顔を上げて、「ありがとうございます」と言った後、「あら?」と声を漏らす。

「スギくんだ」

「あ、やっぱり。先輩ですよね」

高校在学中、彼女はサッカー部のマネージャーを務めていた。

部員達から「ねえさん」と慕われ、おそらく漢字を当てると「姐さん」の方だろうが、それは敬意とか親愛の気持ちをこめてのそれだ。

面倒見が良く、サバサバしていて自分たち部員が練習に専念できる環境を作ってくれたのは間違いなく彼女の力が大きい。

「相変わらず、首に優しくない...」

「自分も平均よりは大きいんじゃないんですか?」

苦笑して杉江が言い返す。

「まあねー」と笑って彼女は頷いた。

杉江のシャツの裾がつかまれる。

それはも同じだったらしく同時に下を向いた。

「何、ユーイチ」

「どうしたの?」

「杉江とちゃんは仲良し?」

首を傾げてそんなことを聞かれた。

というか...

は腹を抱えて笑い出す。

先輩...」

「杉江、って呼び捨て...!」

杉江は溜息を吐く。

「何言ってるんですか。ユーイチは先輩の子供でしょう?」

杉江の指摘に「ノン!」とは首を横に振る。

「違うんですか?」

「身内だけどね」

困ったように笑ってそ言う。


「ユーイチはうちの妹の子」

広場のベンチに並んで座ってが言う。ユーイチは目の前の広場で一人で遊んでいる。

「妹さん..ってアイドルの」

アイドルと杉江は言うが、職業ではなく、学校内で、と言う意味だ。実際、可愛かった。に魅力がないと言う話ではなく、あちらは儚げで守ってやりたくなる、そんな感じだった。

は守る必要性が見当たらず、何より、下手をすれば守られてしまいそうだったのだ。

「そ、アイドルの。あの子ね、居なくなったの」

亡くなったと言うことかと思って杉江は神妙な顔つきになる。

「ああ、生きてるから。...たぶん」

「はい?」

「あの子、男が居ないと生きていけない性格だったのよ..『性格』なのかな?ま、とにかく。そんな性格でね。ユーイチを置いて男を追いかけていったみたい。
あたし、結構大きい会社に就職できて、外国語が得意だったから海外の支店に赴任してたんだけどね。実家に久々に顔を出したらユーイチがいて。うちの両親はあの元気っ子を持て余していたから、引き取ったの。預かったって言うかね」

「海外の支店は?」

「さすがに、子育てしながらってのは無理だからその会社を辞めて、今は地元の小さい会社に再就職したてのところ」

なるほど、と納得した。

納得したが...

「昼間はユーイチは何処に居るんですか?」

「幼稚園」

そう言っては寂しそうに笑う。

その理由がわからない杉江は「そうだったんですね」ととりあえず、目の前のの『姐さん』っぷりが相変わらずなことに感心していた。









桜風
11.12.24


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