| 杉江から掛かってきた電話の内容に、は溜息を吐いた。 実のところ、触れたくないところなのだ。 皆は自分を面倒見が良いとか、姐さんとか言う。 それを嫌だと思っては居ないが、ただ、自分はそんな出来た人間ではない。 探さないのか、と聞かれたが探し出したら恨み辛みを叩きつけそうで怖いのだ。 布団を蹴っ飛ばしているユーイチに布団をかけて苦笑した。 時々思うことがある。 この子のせいで、と。 何ひとつ悪くないのに、目の前にいるユーイチのその先に妹の姿が見えるとどうしても抑えるのが難しくなる。 昔から要領がいいのは妹で、自分は一から順番にやっていかないと落ち着かないので、要領はあまり良くなかった。ただ、そのお陰で失敗も少なかった。 手の掛かる妹が居たので、周囲の面倒も何となく見てしまい、その末の『姐さん』だった。 大学在学中にやってみたい仕事を見つけて頑張って就職して海外に赴任し、会社に期待されているということをいつも肌で感じる環境の中に居た。凄く、心地よくて、燃えた。 しかし、ひょっこり帰った日本では、妹が息子を捨てて男の元に走ったため両親が困っており、それを放ったらかして自分の進みたい道を歩み続けることが出来ず、そっちを諦めてしまった。 きっと、あの子は自分にとって心地の良い環境に身を置いているに違いない。 そう思うと、胸がざわざわして、腹の中でどす黒い感情が渦巻く。 そんな自分が嫌で、杉江に再会したときも『姐さん』を演じた。 「ちゃん」 ごしごしと目を擦ってユーイチが起き上がる。 「ああ、何?おしっこ??」 「ううん」 「えーと。じゃあ...」 何だろう。子供はどんなときに夜中に起きるのだろうか。 「一緒に寝て」 「え?」 「怖い夢、見たの」 ああ、なるほど。そんなものも見るよな... 自分も身に覚えがあるので、は納得し、 「もうちょっと待って。さん、まだ歯を磨いてないの」 というと、ユーイチはそのままの後ろをついて洗面所に向かう。 が歯を磨いている中、ユーイチは彼女がパジャマ代わりにして穿いているジャージのズボンをぎゅっと掴みながらも船を漕いでいる。 何がそんなに怖かったのだろうか。 既に夢うつつのユーイチを抱えては布団に入った。 「ちゃん」 少し目を覚ましたらしいユーイチが名を呼ぶ。 「はいはい」 「ちゃんは、どこにもいかない?」 「今のところ、そんな予定がないわよ」 そう返すと安心したように笑ってユーイチは寝息をたて始めた。 ユーイチが見たという夢の内容が想像できて、溜息を吐いた。 変な事を傍で考えていたから、ユーイチの見た夢に影響してしまったのだろうか。 夢は記憶の整理だといわれているので、きっと違うのだろうが、だとしたら彼はやっぱり母親が居なくなったことを少なからず傷ついていることになる。 「...それが普通よね」 そういえば、両親から彼の父親の話を聞いていない。 わからない、と言うことなのかもしれない。 「ったく...」 毒づいたは、一度深呼吸をして気分を切り替えて自分に蝉のようにしがみついているユーイチの背中をポンポンと安心させるように一定のリズムで優しく叩く。 「おやすみ」 そう声をかけても欠伸をし、静かに眠りの中へと落ちていった。 |
桜風
12.1.7
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