空が青いから 4





「ねえ、ユーイチ」

夕飯を食べながらが声を掛ける。

「なに、ちゃん」

「今度、スギくんの試合を見に行こうか」

杉江と電話で話して数日後に杉江の所属するクラブのホームページに行けば日程表があり、仕事もそれにあわせて片付けていたので、行けることは行ける。

どうも杉江の所属しているクラブは成績があまり芳しくなくて観客動員数も右肩下がりのようなので、チケットは当日でも買えそうな雰囲気だった。

の言葉にユーイチは首を傾げて「試合?」と問い返した。

「スギくん、サッカー選手なんだって」

「そうなんだ!だから杉江はちゃんみたいにサッカーが上手なんだね」

したり顔で納得するユーイチに「あたしよりも断然スギくんの方が上手」と思いながらもそれは口にしなかった。

その代わり、

「ねえ、ユーイチ。スギくんを『杉江』っていうの、やめない?」

「えー。でも、杉江はイヤだって言わないよ。ちゃんみたいに」

確かに、杉江は気にしていないのかもしれない。

サッカー選手はサポーターに呼び捨てにされることもあるだろうから、こんな小さな子に『杉江』と言われても自分の中で違和感がないのかな...?

そんなことを思いながら自分の大人げのなさを反省する。

とユーイチがで会ったとき、両親が「伯母さんだよ」と紹介したために「初めまして、おばさん」とユーイチが挨拶をしたのだ。

「おばさん」なんて、たとえ、続柄がそうであっても20代半ばの自分は受け入れられなかった。

だから、「ちゃんって呼んでね?」と強要した。

ユーイチに対する一人称をどうしたものかと悩んだが、彼に覚えてもらうためにも『さん』としている。

「で、どうする?」

「僕行きたい」

「わかった」

デイゲームに行けば眠ってしまったユーイチを背負って帰ることもないだろうと思って、デイゲームのチケットを購入した。

当日焦って購入するより、前もって購入して置いたほうが入場が楽かなと思ったのだ。料金も、当日よりも前売りの方が僅かではあるが安価だったのも前売りを購入した理由のひとつである。


当日、スタジアムに行くと、赤いユニフォームのサポーターがチラホラ居たが、相手チームのサポーターのほうが多いようで、「ありゃりゃ」とは呟く。

ちゃん?」

「ユーイチ。一生懸命応援しようね」

「どうしたの?」

「どうやら、スギくんのチームは応援してくれる人が少ないみたいだよ」

「杉江かわいそう!僕、一生懸命応援するよ!!」

実は昨日のうちに杉江には電話をしておいた。

『急ですね』と苦笑した彼に「計画は以前からあったんだけどね」と返し、取れたチケットの話をする。

『フロントに話して、ウチのマスコットをそこらへんに向かわせましょうか?出来るかどうかわかりませんけど』

そんなことを言われて「お気遣いは、気持ちだけ受け取っておくわ。面白い試合だったら良いんだけど」とちょっとプレッシャーを掛けてみた。

『厳しいな』と杉江は笑い、『楽しんでくださいね』と言って電話を切った。

「杉江、出番あるかな?」

ワクワクした様子でユーイチが言う。

「あるんじゃないの?」

あの長身を置いておくには勿体無いだろう。

ふと、スタンド下を見ると杉江の所属チームのマスコットがこっちに手を振っていた。

「ユーイチ。パッカ君」

「カッパだ!!」

駆け出したユーイチの腕を慌てて掴んでゆっくり階段を降りさせる。

マスコットはその間、待ってくれていた。

「凄い!カッパだ!!ちゃん、カッパだよ!!」

「隅田川に住んでるんですって」

先日公式ホームページでプロフィールも確認した。中々面白いマスコットだと思った。

ユーイチはパッカ君と握手をしてもらい、上機嫌だった。


試合が始まると少し離れたゴール裏が鬼気迫る勢いの応援を始める。

ちゃん、あそこ何?」

「スギくんのチームの応援団みたいね」

「僕たち行かなくていいの?」

「此処でのんびり応援しましょう」

そう言うとユーイチは頷いたが、彼の興味は応援団に向かっているのは明らかで、はそっと溜息をつく。

遠くから見るなら良いかもしれないが、近くで一緒に応援するとなるとユーイチはまだ小さい。

こちらが面倒見切れるかどうかも自信ないのに、あの中に放り込めない。

その日の試合は、杉江の所属チームは敗退した。

「杉江、下手だったね...」

しょんぼりとユーイチが言う。

負ければ下手、という理屈なのだろうが、は慌てて

「スギくんは下手じゃなかったでしょ?前半24分のあのブロックとか。あと、後半の...」

と杉江のフォローに入る。

ユーイチのことだから本人に対しても言いそうだ。

杉江は下手ではない。チームのバランス、監督の選手の起用...結局色々なものが噛み合っていない印象を受ける試合だった。

だから、選手一人一人は下手ではない。プロである以上、一定程度の実力はある。

「僕でもサッカー選手になれるよ」

「10年後も言ってたら、さん応援するわ」

「ホント?!」

目を輝かせて聞き返され、は多少後ろめたさを感じつつ「うん」と頷いた。

できっこないって思ってああ言ったのに...









桜風
12.1.14


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