| 負けた試合を見に行ったと言うのに、どうやらユーイチは杉江のチームに興味を持ったらしい。 「杉江に会いたい」と何度かせがまれ、折れたは彼に電話をして練習の見学は出来るのかと聞いてみた。 『フロントに聞いてください』 苦笑しながら言われてそう言われてみればそうだな、と納得したは「ごめんね」と通話を切ろうとした。 『冗談です』と慌てた声で杉江が止めた。 「なんで?」 『や、俺を頼ってもらっても良いですから』 そんなことを言われては恥ずかしくなった。 は、常日頃から誰かを頼りにすることを恥ずかしいと思っている。 原因は、おそらく妹なのだろう。彼女を見ていると恥ずかしいやら情けないやらの気持ちになるのだ。 『ひとり』が苦手で、誰かしらと一緒に居ないとダメだった彼女を見ていると歯痒いとかそういう気持ちが浮かび、最終的には『恥ずかしい』になってしまった。 だから、杉江に頼っているらしい自分の状況が恥ずかしくなったのだ。 『ごめん、フロントに問い合わせるから。ありがとう』 そう言ってが電話を切った。 「俺、何か拙いことでも言ったかな...?」 通話が切れた電話を眺めながら杉江は首を傾げる。 もしかしがら、『姐さん』に向かって『頼ってもらっても良い』は失礼だったのだろうか。 しかし、高校時代から思っていたことだが、は時々何となく危うい。 何でも一人でやろうとして、実際やり切れるだけの力があった。 だから、誰も頼らずに寧ろ周囲に自分を頼らせてそれを受け入れていた。 しかし、そんなに誰かを支えていたら最終的には自分が潰れてしまうのではないだろうか。 今回のユーイチだってそうだ。 話を聞けば、自分が全部引き受けたと言う。 ユーイチの生活費やら、幼稚園の送迎、そのほか自分の事だってあるだろう。 それらを両親との役割分担とするでもなく、『全部』だ。 いつか倒れてしまうのではないだろうか。最近、時々それが心配になっていた。 数日後、練習用ピッチでプレイしていると「杉江ー!」と声が聞こえた。 休憩に入って練習を見学に来ているギャラリーを見ると、ユーイチが大きく手を振っている。 苦笑して軽く手を振り返すと「キャー!」と声が上がった。 ユーイチとがキョロキョロと驚いた様子で周囲を見渡している。 意外と女性サポーターに人気があるのだ。 ユーイチがに耳打ちをして、彼女が何か頷いている。 何を話しているのだろうか。何にしても彼女たちは楽しそうだ。 しかし、改めてこうして遠目で見ると彼女たちは親子に見える。 近付いても勿論、血縁者と言うこともあって結構似ている。 そういえば、以前幼稚園の話をしていたの表情は少しだけ沈んでいたと思う。 何か難しいことがあるのだろうか... 練習が終わり、サポーターへのファンサービスの時間だ。 「杉江!これにお名前書いて」 そう言ってユーイチが渡してきたのはタオルマフラーだった。 「ユニフォームじゃないんだな」 「ちゃんが忘れてきた」 「あたし?!ユーイチが絶対に自分が持ってくって言ってたんでしょ?!」 「けど、先輩。タオルマフラーにサインは難しいです」 苦笑して言う。確かに、タオル生地に名前を書こうと思ったらひと苦労だろう。 「あ、そか。色紙を買って来ればよかったんだね。ごめん」 「いいですよ」 「スギくんって、女の子に人気者だったんだね」 「高校のときからね」 「...あー、そうかも。そうだったねぇ」 遠い目をしてなにやら思い出したは何だか苦い表情を浮かべていた。 |
桜風
12.1.28
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