トライアングル 3





ずっと低空飛行を続けていたらしいキヨたちのチームは少しずつ上昇してきたらしい。

監督が変わればこんなにも変わるものなのだろうか。

出場機会が増えたキヨとハマも練習に一層熱が入っているらしくて、以前よりも会う機会が減った。

元々、練習熱心だったし、そんなにあっていたわけでもないけど、それにしても激減だ。

「寂しそうね」

会社の社長が愉快そうに指摘してきた。

「そんなことないですよ」

わたしの知り合いがあのチームに居ると言うのは社長も知っている。

たまに出かけたりしていることも。

「どっちなの?」

と興味津々に聞かれたことがあったけど、どうにも友情以上の感情が芽生える気配がなく、そのことを話したら、詰まらなさそうに肩をすくめられてしまった。



毎日「今日も暑くなるでしょう」という天気予報士の声を聞く季節のある日。

確かに、暑いな、と燦々と照る太陽を見上げて思った。

そういえば、そろそろ『中断期間』というものになるのかな、とこれまでのスケジュールを思い出す。

中断期間中に合宿とかあって、後半戦が始まるのだとか。

少しだけオフもあるのが毎年のことで、今年もオフがあるのかな、とスケジュールを思い浮かべる。

「あ、」と前方から声が聞こえて足を止める。

「ハマ?!」

彼は苦笑して「久しぶり」と言う。

思わず周囲を見渡す。

「キヨは居ないよ」

「あれ?漏れなくついてくるんじゃないの?」

そう言うとハマはまた苦笑した。

の、その格好。似合うな」

今日は営業でスーツを着ていた。

「ああ、素敵でしょう?」

「うん、デキル女って感じかな?」

「もっと褒めていいよー」

そう言うとハマはまた笑う。

「そういえば、どうしたの?」

ハマはホテルから出てきた。

「うん。少し、時間ある?」

そう聞かれて頷く。

今日は直帰してもいいって言われたし。


そのホテルから少し離れたカフェに入った。

「で、どうしたの?難しそうな顔してるよ」

「うん...」

ハマは少し黙っていた。注文したコーヒーを2口くらい飲んで、やっと口を開く。

「さっきさ、甲府のGMと会ってたんだ」

「甲府?GM??」

聞き返すとハマは苦笑する。

「本当に興味ないんだな」

「あ、うん。今のってサッカー用語?」

「甲府ってのは、日本のプロサッカーチームで、甲府..山梨県がホームなんだ。GMはゼネラルマネージャー。チームの殆どの決定権をもっている人のことだよ。例えば、トレード、とか」

そこまで言われて、やっと納得した。

「ハマにその話が来てるんだ?」

「そういうこと」

「今のチームは何て?」

こういうとき、何らかの方針とか聞かされるんじゃないかな。

「あ、わたしが聞いていいことなら...」

「うん。は、チームと関係のないところに居るから俺は話しやすいよ」

そう言ってチームの方針を教えてくれた。

こういう話があった場合は選手に直接話をする。そして、選手に選択肢を与えることにしているらしい。

事務側で勝手に話を握りつぶさないということのようだ。

「誠意あるチームなんだね」

わたしが言うと、ハマは少し驚いたような表情を見せて、「そうだよな」と頷いた。

「決めたの?」

「いや。話を聞いてみたかっただけだから。こんな機会、滅多にないからどんなもんなのかなって」

「ふーん」

そういうものなのかな?

「それに、ずっと使ってくれているチームにまだ恩返ししてないし」

そう呟いたハマの言葉に何だか違和感を感じた。

それは、わたしがそういうスポーツマンシップを持っていないからかもしれないけど。

「すぐに出さなきゃいけないことなの?」

「さっき言ったとおり、移籍しないよ」

苦笑して彼はそう言った。

「そっか...甲府からの話ってキヨは知ってるの?」

「フロントと監督しか知らない。...一応ね」

「一応?」

「向こうがプレスに流してるかもしれないから」

「プレス..記者さん」

「そういうこと」

「変に大騒ぎになってないといいね」

「まあ、そうだな」

そう言ってハマは残りのコーヒーを飲み干した。









桜風
12.5.12


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