| 仕事をちょこっと抜けて、ハマが新しいチームに向かうのを見送りに行った。 シーズンが終わったらまたキヨとハマとわたしの3人で遊びに行こうというと 「こそあらぬ誤解を招く噂が流れるぞ」 とハマが苦笑する。 「大丈夫、キヨとハマの邪魔はしないから」 「そりゃ、どうも」 溜息交じりにそう返されて、そしてハマは軽く手を振って車に乗り込んで東京から離れた。 中断期間に何か奢ってくれると言う約束を律儀に守ってキヨが声をかけてきた。 そして、彼が言ったように居酒屋ではなく、もんじゃ焼きを食べに向かった。 わたしがもんじゃな気分だったのだ。 そして、キヨももんじゃならそんなに高価じゃないからわたしのリクエストに応える気になったらしい。 「てか、ヘッタクソだなぁ...」 土手を作って、ともんじゃの作法を守って作っていたらキヨが笑いながら私の手からもんじゃの材料を取り上げた。 笑っただけあってキヨは上手にもんじゃを仕上げていく。 「キヨ、上手だね」 「そりゃ、ウチのホームは浅草だし」 何の関係があるのだろうか... 聞いてみると 「浅草って言ったらもんじゃだろう?」 と返された。 「わかった!もんじゃが上手に作れることが入団の条件なんだ」 「なワケないだろう」 呆れたようにキヨが返した。 「ハマから連絡とか来てる?」 不意にキヨが言う。 「ん?ああ、まあたまに電話してる。この間『山梨って言ったらワインだよね!』って言ったら律儀に赤と白を送ってくれた。今度何かお返ししなきゃ...」 「無心するなよ...」 呆れたようにキヨが言う。 「キヨは電話とかしてないの?」 「そんなしょっちゅう連絡とってたらキモイだろう」 「何で?ライバルチームだからって理由じゃないところの方が色々と誤解を招くような...」 「あー、はいはい。ま、ハマだって向こうの環境に慣れなきゃいけないのに、昔のチームのヤツが連絡してるのはどうかなって思うんだよ。ほれ、そろそろいいんじゃね?」 鉄板の上のもんじゃが美味しそうな色になってきた。確かに、頃合いかも。 「男の子って大変だね」 「は?『男の子』って年でもないんだけど...もちろん、も『女の子』って年じゃないぞ?」 余計な一言だ。 「何か、面子とかそういうのに拘んなきゃいけないんでしょ?」 「いけないことはないだろうけど...やっぱりライバルなんだよなー」 頬杖をついてそう言う。 「ねえ、話は変わるんだけどさ」 「ん?」 「ハマと話してたんだけど、シーズン終わったら3人で遊ぼって」 「ま、シーズン終わったらいいんじゃね?てか、お前あらぬ誤解を招く噂が流れるぞ...」 「それ、ハマにも言われたー」 そう言って笑う。 「シーズンはいつ終わるの?」 「11月..12月だな。ウチの日程はわかるけど、甲府は頭に入ってない」 「まさかの初冬...何して遊ぶ?スキーとかは恐ろしくて誘えないんだけど...」 「まだ先の話だろう...」と呆れた様子のキヨが言う。 「温泉がいい」 ぽつりとキヨが言う。 「温泉かぁ...混浴?」 目の前のキヨが盛大にビールを吹いた。 「汚いなぁ...」 咽ているキヨに言うと 「お前が変な事言うからだろうが」 と言われた。 「言ってみただけじゃん。タダで見せるわけないでしょう?」 「金を払ってでも見たいもんじゃないな」 悪態つくキヨに笑って 「真っ赤な顔して言われてもねぇ」 と返してやった。 「とりあえず、に温泉選び任せていいか?」 「旅費、持ってねー」 「車出してやるから、それで手を打てよ」 「車でいける範囲ね、了解」 「けど、3人で遊ぶのだって、いつまで続けられるかわかんないんだよね」 「まあ、そうだよなー」 頬杖をついてキヨが相槌を打った。 「キヨとハマに彼女が出来たら、さすがにわたしと一緒に遊ぶのは無理だろうし。2人が遊ぶのは別に構わないだろうけど」 「奇跡的にに彼氏が出来ても同じだしなぁ」 「ね、なんでわたしの場合は『奇跡』なの?」 「何となく、想像できないから?」 疑問系で返された。 ま、いいけどね。 いつか来るかもしれない未来を思て憂うより、今ある事を楽しみたい。 と、いうわけで明日にでも温泉ガイドブックを買いに行こう。 まだ何ヶ月も先で、日程調整もしなきゃいけないのに、気持ちは既に冬の温泉。 交通費が浮く分、旅館は少し贅沢をしてしまおう。 この際、キヨとハマの意見はきかずに、自分の趣味に走ることを決めた。 そして、その数ヵ月後。 選んだ旅館が、あまりに自分の趣味に走りすぎていて、行きも帰りも2人の説教を聴き続ける羽目に陥った。 車の中だから逃げようがなくて、それはそれは、大変だった... 「ら、来年リベンジ!」 「良いから、来年こそはお前彼氏作れ」 とキヨが言うもんだから 「良いから、彼女作りなよ」 言い返してみた。 思いのほか、へこんでしまった... 「ま、もうちょっと3人で遊びたいし良いじゃん」 ハマがフォローを入れて「だよな」とキヨが復活。 何だか当分続きそうなこの関係が居心地が良くて、思わず笑みが零れ、キヨとハマを見ると同じような表情をしていた。 |
桜風
12.6.2
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