| その年、結局とは再会することはなかった。 自分もしょっちゅうオフがあると言うわけでもないし、のんびり出来るほど余裕があるわけでもない。 も大学生で家を出ているようなので長期の休みくらいしか地元に戻ってこないのだろう。 だから、彼女に再び会える機会は殆どないに等しかった。 年が明けて、新体制でのチームがスタートした。 堀田はプロサッカー選手で、イースト・トーキョー・ユナイテッド、通称ETUに所属している。 彼の所属しているチームは数年前に二部から一部に上がってきた。そして、毎年二部への降格が危ぶまれている。 昨シーズンは何とか二部への降格を免れることが出来た。 しかし、そんな成績不振が原因かどうかは不明だが監督がコロコロと変わる。 今年も新しい監督を迎えての新体制というわけだ。 今回就任する監督は、以前子のチームに選手として所属していた人だった。 代表にも選ばれ、ゲームメイクもしていた。 しかし、若い世代の中には知らない者もいるようで、それが時間なのかと何となく感慨に耽ってしまった。 監督が変わってもチームがすぐ変わると言うわけではない。 相変わらず負けを重ねた。 その日の練習は午後からで、堀田は午前中散歩に出た。 最近はスタメンに選ばれることがない。今年入ってきた椿がこれまで自分がいたポジションに立っている。 少しだけ後ろ向きになりかけたとき、「堀田さん!」と名前を呼ばれた。 振り返るとがいた。 「ああ、さん」 「あ、名前。覚えてくれてたんですね」 堀田の下へ走ってきた彼女が笑顔で言う。 「そっちこそ」と返すと「恩人の名前を忘れるほど薄情ではありません」と返された。 『恩人』という単語でふと思い出す。 「チビは?」 「...亡くなりました」 少し寂しそうに彼女が言う。 「あ、ごめん」 「いいえ。チビのことも覚えててくれて嬉しいです」 にこりと微笑んで彼女が言う。 昨年会ったときはどこかあどけなさがあったが相応の落ち着きがあったが、今の彼女はあの時以上に落ち着いた雰囲気を持っていた。 「そこのベンチ、座りません?」 時間はまだあるし、大丈夫だろうと思って堀田は頷いた。 まずは、忘れてはならないとばかりにが堀田に昨年夏に買ってきてもらったスポーツ飲料の代金を払った。 「律儀だなぁ」と声を漏らすと「よく言われます」と彼女が笑った。 静かな笑顔の子だな、と思った。 以前あったときは憔悴しきっていたので、笑顔もどこか疲れが見えて気の毒だったが... しかし、チビが居なくなったのに、なぜこんなところを歩いていたのだろうか... 「さんも、散歩?」 「散歩..といえば散歩ですけど。堀田さんに会いたくてウロウロと」 と少しだけ恥ずかしそうに言う。 「そうか...」 なら、もう会えないのかとちょっとだけ思った。 「堀田さんに中々会えなかったからちょっぴり焦ってました」 「ん?」 「ほら、時々散歩されているって前に会ったときに言われたじゃないですか。けど、会えないので、アレってわたしを納得させるために吐いた優しい嘘だったのかなって」 「俺は、そこまで優しくないよ」 「なら、安心です」 何故だろう... 不思議に思って聞いたみた。 「とことん優しい人は、疲れちゃいますから。自分を我慢して、疲れて潰れかねないでしょう?だから、『良かった』なんです」 「なるほど」と堀田は頷いた。 しかし、の言葉はどこか重みがある。 そういう、『とことん優しい人』を知っているのだろうか。 彼女を見下ろすと苦笑して彼女は軽く手を上げた。 「潰れちゃった人です。って、逆に『とことん優しい人』って自分を言うのもどうかと思いますけどね」 と肩を竦めた。 驚いている堀田には 「わたし、今23歳なんです。一回ぺしゃんこになったので、何回か足踏みして、やっと皆に追いつきました」 と言う。 思わず堀田は手を伸ばして彼女の頭に手を置いた。 「頑張ったんだな」 は俯いて「ありがとうございます」と呟いた。 |
桜風
11.8.21
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