歩く速さで 3





徐々にチームの成績が上がってきている中、監督が珍妙なことを思いついた。

サポーターにカレーを振舞うと言うのだ。

選手やフロント、食堂のオバちゃん、皆でカレーを作って自分達を応援してくれる地元の人たち、サポーターに振舞うと言う突発企画。

「変なことを考えるよなぁ...」

面白がっている口調で石神が言う。

「っスね」と堀田も同意した。

どうせなら、連絡先を聞いておけばよかったと今更思う。

連絡入れて..ってダメか。大学生だ。神奈川の大学に通っているんだから今から連絡を入れても来られないな...

「堀田君、何を考えているのかな?」

顔を覗きこみながら石神が言う。

「何をって...」

「ズバリ!女のことだな!!何だよ、水臭いなぁ〜、誰?可愛い??どんな子??お前、女が居るなんて聞いてないぞーー!!」

石神と一緒に騒ぎ始めた丹波にどうしたものかと悩みながら視線を窓の外に向けた。

何より、あながち間違っていないこの2人の勘が恐ろしい。

「ほらぁ!あなた達も手伝って!!」

食堂のオバちゃんに感謝だ。

堀田は皿出しの手伝いをすべく、丹波と石神から逃げるように食堂の奥へと向かった。


カレーパーティは大盛況だった。

こうやってサポーターと触れ合う機会があるのは嬉しいものだ。

彼らの表情、言葉がより身近になる。この人たちが応援してくれているんだと思える。




ここ最近、時間があれば散歩をするようになった。

大学生の休みのサイクルなんて全然知らない。

夏休みと冬休みに春休みはあるようだ。

だが、それがいつからいつまでで、それ以外にどんな休みがあるかは分らない。

随分と日差しもきつくなったものだ。

空を見上げる。

「堀田さん!」

驚いて振り返った。

彼女は笑顔で駆けてきた。

目の前で止まり、「こんにちは」と挨拶をする。

「こんにちは、大学生はそんなに暇なの?」

と堀田が返すと

「超忙しいです」

と笑顔で返された。

「ね、堀田さん。見て!」

そう言って彼女は肩から掛けていた大き目のバッグから何かを取り出して広げた。

「じゃーん」といって彼女が掲げたそれを見て堀田は言葉をなくす。

ETUのレプリカユニフォームだ。背番号は『8』。自分の番号だ。

「あ、あれ?違いました??」

慌てる彼女に

さん。それ...どうしたの?」

と聞いた。

「さっき、クラブハウスに行って買ってきたんです」

が言う。

「俺のこと、知ってたの?」

「ついこの間知りました。この間、神奈川に来たでしょう?川崎に」

負けた試合だ。

大雨の中、サポーターが応援してくれた試合。

「来てたの?」

「はい。友達が元々川崎の..えーと。韓国出身の子。姜くんでしたっけ?が可愛くて好きだったみたいで。誘われて、スタジアムに行くことになったんですけど、下調べくらいして行った方が良いだろうなってネットで見てたら堀田さんの名前と写真があって。
友達には一緒にスタジアムに行くけど応援できないって話をして、ETUの方で見てました」

「雨の、中...」

「サッカーって雨の日でもするんですね。ビックリしました。なにぶん、初めて尽くしで右も左も分らなかったんですけど...」

気恥ずかしそうに彼女が言う。

「ああ、そうなんだ。初めての試合だったのに、応援してくれたのに負けて..悪かったなぁ...」

改めて悔しくなってしまった。

「勝つときもあれば負けるときもあるんですよ。勿論、引き分けも」

そう言ってが笑う。

「また神奈川の方に来たときには応援に行きます。休みでこっちに帰って来てたら、こっちのスタジアムにも行きます。これを着て」

「ありがとう。風邪、引かなかった?」

「丈夫に出来てますから!...と言いたいところですけど、疲れとか溜まってみたいで、久々の発熱でした。でも、今度はちゃんと防水防寒対策バッチリで行くつもりなので雨でもドンと来いです」

ぽんと自分の胸を叩いて彼女が言う。

「そうか..うん、ありがとう」

堀田もも少し時間があったので並んで川面を眺めながら散歩をした。

自然と歩調はゆっくりしたものとなった。









桜風
11.8.28


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