| 練習が終わってロッカールームに向かう途中 「堀田クーン」 と石神が肩に腕を載せてくる。 「何スか?」 「今日の子、誰?」 「...は?」 何の話だ? 眉間に皺を寄せた堀田に石神が「チッチッチ」と人差し指を立てて左右に振る。 「水臭いなぁ〜」 「俺は見た!」 不意に加わったのが丹波で嫌な予感が一気に倍増。 「実はな、堀田。俺の車は今、車検に出ている。そこで、俺をリスペクトして止まない石神が俺を迎えに来たんだ」 「丹さんが迎えに来いって言ったんじゃないスか」 石神が抗議の声を上げるが丹波は黙殺だ。 「で、だ。ちょっと早いがクラブハウスに向かっていたわけだよ。すると、遊歩道を歩くお前の姿が見えるじゃないか。親切な俺達はお前にも声をかけてやろうと思った。 思ったが...ッ!」 「隣に可愛らしい女の子が居るじゃないか。これで声を掛ければどこかから逃げ出した暴れ馬に蹴っ飛ばされると思った俺達はそっとその場を後にした」 丹波の言葉を石神が引き継いで言う。 ...なら、引き続きこのままそっとしておいてほしい。 「なあなあ、さっきの子。何て名前?お前の彼女だろう?よーし、恋愛は百戦錬磨の俺だ。相談に乗ってやらなくもない。今日の飯、付き合え」 「この間お前別れたっつってたろう」 丹波の啖呵に通りがかった堺が冷静なツッコミを入れる。 「しかも、振られたほうで」 と補足つき。 「うるさい!百戦錬磨って言ったら百戦錬磨なの!!」 子供みたいだ... 「で、名前。ほら、吐け。楽になるぞ」 「さん」 面倒だから答えた。 すると、もっと面倒になった。 「おい、聞いたか?」 と丹波。 「ッスね。苗字の方を答えましたよ。こりゃ、本気っスね」 と石神。 「名前は?って聞かれたら普通は下の名前だろう。苗字は俺を警戒している証拠だ!」 警戒くらいするし、したくもなるだろう... 「で、名前は?」 「確か、だったと思います」 「確か...ぼやかした!」 もう本当に解放してもらいたい。 堺の姿は既になく、助け舟も出そうにない。 結局、何でこの人も居るんだろう... 堀田は先輩達に引きづられて居酒屋で夕飯を摂っている。なぜか堺も居るのだ。 「こんなカロリーの多そうなもんしか置いてない店を選ぶなんて、お前らいい加減自分の体調管理を考えろ」 不機嫌に堺が言う。 「じゃあ、来るなよ。ちゃんと事前にどんな店か言ったじゃないか」 と丹波。 その点は、正論だ。 堺も同じことを思ったのか、一度言葉に詰まり、目の前のウーロン茶を口にした。 丹波と石神は根掘り葉掘り堀田から彼女のことを聞きだそうとした。 しかし、元々彼はの情報を殆ど持っていない。 知っているのは、名前と年齢。学校が神奈川にあって、ちょっと前まで犬を飼っていてたこと。そして、両親が健在なことくらいだ。 全く自分達の期待はずれであったことに気が付いた丹波達は早々に興味を失った。 連絡先すら知らないのだ。特別な関係であるはずがない。 堀田に女の影あり、と盛り上がっていた先輩たちが大人しくなったので堀田は早めに切り上げて帰ることにした。 「堀田さん!」 名前を呼ばれた気がして振り返る。 当然、彼女が居るはずがない。明日は学校だから午後一で帰ると今日会ったときに聞いた。 「けど、まあ...」 何で連絡先を聞こうとしないんだろうな... 聞けば素直に教えてくれそうだが、何だかどんどん聞きづらくなる。 しかし、おそらく彼女から自分の連絡先を聞くことはないだろう。少し前..具体的なには先日の川崎戦前ならともかく彼女はもう自分の職業を知ってしまったから。 結局、どうなるにしても自分次第ということになっている。少なくとも、切っ掛けは。 その後、彼女が応じるかどうかということもあろうが、まず最初の一歩は自分からしかない。 そうは言っても、偶然に会えるとかそういうのはないだろうし... しかし、彼女の声が頭からはなれないと言うことは、きっとそうなのだろう。 自分の気持ちをぼかしながら堀田は自宅へと向かった。 |
桜風
11.9.3
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