歩く速さで 7





サッカー好きの友人が応援しているのは川崎で、キャンプ地は所謂避暑地と呼ばれるところで行われていると言う。

だから、見学に行きたくても行けないと嘆いていた。

その分、今のうちにバイトをして絵夏休みの遠征費を稼ぐのだとか。

それくらいしなくてはならないのだろうか...


とりあえず、堀田に教えられたとおりのETUのキャンプ地に着き、スタンドからピッチを見下ろすと、半数が目隠しをしてウロウロしていた。

「なに、これ...」

思わず呟く

サッカーってこんなことをするんだ、と彼女の知識が増えた。

これは、イレギュラーなことだと指摘してもらうまで彼女の常識となってしまった。

ちなみにそれを指摘したのは、何を隠そう堀田である。


それはともかく。

不思議な光景が広がっていた。

カキ氷屋さんとか、水着で浮き輪のおじさんとか。

「お嬢ちゃん、ひとりかい?」

不意に声を掛けられて驚いて振り返る。どこかつかみどころのないおじさんが立っていた。

「ああ、怪しいもんじゃないよ」

充分に怪しい。

「笠野さん!」

スタンドの下から声がした。体を乗り出して覗き込んでみると自分と年恰好が変わらない女の子が目を吊り上げている。

「サポをナンパしないでください!!」

「してないだろう。声を掛けただけじゃないか」

「怯えてるじゃないですか!!」

元気な子だな、と思った。

ピーと笛が鳴る。

どうやら交代らしい。


今まで目隠しをしてウロウロしていた堀田は目隠しを取って顔を上げた途端、目に入った人物を見て一瞬固まった。

彼女は目礼をする。

ぎこちなくそれに応えて堀田はパートナーに目隠しを渡した。

確かにキャンプの日程を言ったが、初日に来るとは思わなかった。

というか、そもそもまだ彼女は夏休みになっていないと言っていたのでキャンプの見学に来るとは思わなかった。

夏休みの前にはテストがあるのはお約束だろう...


その日の練習はキャンプ1日目で移動もあったので、軽く終わった。

ロッカーに向かう中、スタンドを見上げるとがまだ居た。

ぺこりと彼女が頭を下げ、堀田も軽く会釈をする。

明日も来るのだろうか...

彼女の連絡先は知っているが、合宿中に連絡を取ることはないだろう。

ゆっくり時間が取れる気がしない。

何より、電話を使用ものなら何処からともなく現れて邪魔をしそうな人たちがいるのだ。

キャンプ中は結局連絡を取らなかった。

彼女はキャンプ2日目もスタンドに立っていた。

3日目からは顔を見なかった。さすがに、学校があるか、と納得した。


キャンプが終わって自宅に帰り、荷物を置く。

ふと、携帯を手に取り、番号を選択して..一度携帯を置いた。

用事がない。用事がないのに連絡を入れても良いのだろうか...

洗濯等家事を一通りして、また携帯に手を伸ばした。

家事をしながら電話をする理由を作っていたのだ。

通話ボタンを押す。

暫くコールしてもは出てこなかった。

切ろうとすると「はい!」と勢い良く電話の向こうから声がした。

「もしもし、ちゃん?」

『堀田さん!間に合った...』

そう言って深く息を吐いている。

「忙しかったんなら...」

『丁度バイトの休憩に入ったところです。あと2分早かったら電話取れませんでした』

彼女が笑いながら言う。

そういえば、こんな近くで彼女の声を聞くのは初めてだ。

「そっか。バイトは..何してるの?」

本当に彼女のことを知らないなと思う。

『ペットホテルとカテキョです。今日はペットホテルの方です』

なるほど、前者は彼女の性に合ったものだろうし、後者は大学生のバイトの定番だと聞く。

「キャンプ、見に来てくれたんだね」

そう言うと『目隠しサッカーって面白いですね。初めて知りました』と言われて堀田は慌てて訂正をした。

『へ?』と不思議そうな声を上げる彼女に「あれは、珍しいことで普段からそういう練習をしているわけじゃないよ」と言う。

『そうなんですか...』となぜか沈んだ声で相槌を打たれた。

暫く話をしていたが、よくよく考えたら今の彼女はバイトの休憩時間だと言っていた。

「ごめん、長く話して」と言うと『あ、本当だ。あっという間ですね』と応じた彼女の声は明るかった。

「夏休みは帰ってくるの?」

『はい、一応そのつもりです』

「じゃあ、また一緒に散歩しようか」

思わずさらりと出た言葉に少し慌てていると『はい』と返事がある。

「暑いから水分補給を忘れないこと」

釘を刺すと『はーい』と返事があり、挨拶をして通話を切った。









桜風
11.10.1


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