歩く速さで 8






電話で話したとおり、は夏休みを利用して東京に戻ってきた。

東京と神奈川なら実家からも場所によっては通えるだろうにとは思ったが、彼女の選択した学部から考えるとそろそろゼミとかが入ってくるのだろう。

そうなると、夜が遅くなったりするのだろうから、電車の時間が気になる通学形態は難しいのかもしれない。

しかし、本当に彼女からの連絡がない。

基本、堀田から連絡をして、仮に彼女が電話に出られなかったら折り返しで電話が掛かってくるくらいだ。

彼女が自分の電話番号を知らないことはない。交換したし。

電話が苦手ならせめて、メールをと思うが、と自分はそんなことを求められるような関係でもない。

何せ、一言で言うなら『散歩仲間』だからだ。


練習が終わってロッカールームに入るなり鞄の中から携帯を取り出す。

やっぱり何もない。

まだ夏休み中ではあるがそろそろ神奈川に戻ると言っていたはずだ。

「堀田クン」

またこのパターンかと人知れず溜息を吐きたくなる。

「何ですか?」

「携帯を見て溜息とは...乙女みたいだねー」

石神が言う。

「うーん、堀田の乙女姿...ちょっとキモイな」

勝手に想像しておいて酷い言い様だ。

「ところで、堀田クン。ちゃんとはあれから何か進展はないのかな?お兄さん達が楽しめそうな進展はないのかな??」

「特に何もないですよ」

返しながら堀田が着替えていると携帯のランプが点滅している。

基本、サイレントモードにしていることが多いので音も鳴らなければ振動もしない。

今此処で携帯を手にしようものなら自称『お兄さん』達が面倒くさそうなのでそれを避けて服を着替えて「お先です」とロッカールームを後にした。



クラブハウスを出て車に乗り、携帯を確認する。

散歩仲間からのメールだった。

添付ファイルがあり、開けてみると犬が走っている写真がついていた。

聞きなれない大会の名前が書いてあり、彼女はそこに小旅行しているとのこと。

『お土産を買ったので渡したいです』と書いてあった。

電話をしてみるとワンコールもしないうちに彼女が出る。

『驚きました...』

「俺もだよ」

苦笑して返す。

「今、どこ?まだ大会の会場?」

『駅のホームです。今晩中に戻ってきますよ』

そう言う彼女の背後では駅のホームに電車が入るとのアナウンスが流れている。

「駅に着いたら電話して。車で迎えに行くよ」

『良いですよ。今日も練習だったんでしょう?!お土産は改めて...』

「行く。いい、電話するんだよ?じゃないと、俺はずっとちゃんの電話を待ってるからな」

半ば脅迫だなと思いながらも通話を切った。

夜、少し遅い時間に電話が掛かってきた。脅しが効いたみたいだ。

「もしもし」と出れば『駅に着いた事は着いたんですけど。タクシー拾うので良いですよ』と言う。

「たまにタクシーの運転手でも性質の悪いのがいるらしいから。駅はウチの最寄で良いんだよね?」

確認すると彼女が駅名を口にした。

間違いなく、自分の家の最寄り駅だ。

「今から行くから。駅前にコンビニがあるよね。そこに居るんだよ」

そう言って通話を切って家を出た。

駅前のコンビニの斜め前で停まり、携帯を鳴らすと雑誌コーナーで立ち読みをしていたらしい彼女は顔を上げた。

「着いたよ」というと彼女はキョロキョロと外を見る。目が合って軽く手を上げると彼女は慌ててレジに向かって行き、出てきた。

運転席から助手席のドアを開けて「どうぞ」と言うと彼女は躊躇いを見せたが「お邪魔します」と車に乗り込む。

「何買ったの?コンビニ」と言うと「あ、これです」と袋から取り出したのはサッカー雑誌。

「何か、ETUの事が結構書いてあったから勉強しようと思って」

「見に来てくれるのが一番いいと思うけどね」

堀田が返すと「同時進行で頑張ります」とが返した。

「頑張るようなものじゃないよ。楽しんでもらった方が良い」

堀田の言葉に「わかりました。頑張って楽しみます!」とが返す。

頑張りたいなら仕方ない、と堀田は苦笑してのナビに従って彼女の自宅へと車を走らせる。

ちゃんって電話嫌い?」

「嫌いじゃないです。好きでもないですけど...」

「メールは?」

「気になりませんけど...どうかしましたか?」

「...や、今日初めてだったから」と堀田が言うと「あ...」とが俯いた。

「迷惑かなって思ったんですけど...ごめんなさい」

何故そんな話になる?!

内心慌てた堀田は「そうじゃなくて」とすぐさま訂正をした。

「俺は、電話苦手でもないし、メールもそこまで嫌いじゃないからさ」

だから、掛けてよ、送ってよと内心続ける。受け身なことを考えているのはわかっているが、今のままだと一方通行で少し寂しい。

「堀田さん、忙しそうだし。電話とかだったら時間を取っちゃうから」

が言う。

「じゃあ、メールは?」と返すと「良いんですか?」と遠慮がちに彼女が言う。

「番号もメールアドレスもそのために教えたつもりなんだけど」

と返されては目を丸くする。

「電話だったら出れないときがあるだろうけど、メールだったらちょっと時間を置くことになっても返せるし」

堀田の言葉にはくすぐったそうに目を細めた。



「あれ、堀田さん。それどうしたんスか?」

堀田のバッグには犬の可愛らしいストラップがついている。携帯に着けるか悩んだがバッグにした。

「もらい物」

「サポからっスか?いいなー」

そう言って一頻り羨ましがる世良の姿に苦笑した。

『サポ』と言えば『サポ』だが...

その日、からメールが送られてきた。

彼女のメールには写真が添付されていてポーチにストラップがついている。

堀田とのお揃いで買ったらしい。

堀田は返信したメールに写真を添付した。自分の送るメールには珍しいが、お返しをしたくなったのだ。

堀田の送ったメールに添付してある写真は犬のストラップが着けてあるバッグだった。









桜風
11.10.8


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