| シーズンが終わった。 近年では間違いなく最も良い成績だったが、それでも優勝してこそだと思っているので満足とまではいえない。 白い息を吐きながら遊歩道を歩いた。 約束をしているわけではない。ただ、何となく。 歩く先に見えるベンチに白いコートを着ている女の子が座っていた。だ。 「寒くない?」 声を掛けると「ちょっと寒いですね」と鼻の頭を赤くした彼女は笑った。 「今年はめまぐるしかったです」 「そうなんだ?」 堀田が隣に座ると彼女が笑ってそういった。 「知らない世界に踏み込みましたから」 「まだ入り口でしょう」と堀田が笑う。 「奥が深いですね」と彼女も笑った。 「ねえ、堀田さん。お時間ありますか?」 「うん、あるよ」 堀田の返事に頷いた彼女は立ち上がる。 「付き合ってください」 「いいよ」と言って堀田も立ち上がる。 彼女の案内の元に向かったのは墓地だった。 「ここは?」 「動物の供養をしてくれるお寺です」 なるほど、と堀田は納得した。 「チビは此処にいるんだ?」 「はい」 途中で買ってきた小さなブーケとジャーキーを持って彼女は墓地の中を歩いていく。 「此処です」と彼女が立ち止まった。 小さくなったな、と心の中で呟く。 もうを引きずって暴走することはできない。 ジャーキーを備えて手を合わせてその場を後にした。 「チビは、堀田さんと初めて会った1週間後に亡くなったんです」 さすがに驚いた。 「そうだったんだ...」 「最後まで人助け」 は寂しそうな表情を浮かべているが、どこか誇らしげだった。 「人助け?」 「小さい子が道路に飛び出そうとしたそうです。それに突進してチビが代わりに。その子の親はチビがその子に怪我をさせたって凄く怒ったらしいんですけど、目撃者の皆さんが、寧ろ助けたんだって言ってくださって。何とかその親御さんとけんかをせずに済んだんですけどね」 その話を聞いてふと思い出す。 「そういえば。前にちゃん、俺はチビに見込まれたって言わなかったっけ?」 「覚えていたんですか?」と意外そうに言われた。 なぜか、「そうかもな」と思ったからだ。まあ、目の前を駆け抜けられたからその感情はすぐに否定したが... 「見込まれたって、どういうこと?」 「動物って、死期を悟ってしまうらしいんです」 それは堀田も聞いたことがある。しかし、事故死で死期を悟るとかあるのだろうか。 「チビ、あれでちょっと体調がよくなかったんですよ。久しぶりに元気そうだったから散歩したら堀田さんを見つけて猛烈ダッシュ。ビックリしました。あの後、家に帰ってぐったり。 凄く心配したんですけど、また散歩に出るくらいには元気になったから散歩をしてて子供を助けて...亡くなったんです。たぶん、どっちにしろ長くなかったんだと思います」 チビの話は意外なことだった。 大暴走のときのハーネスを掴んだ。物凄く力強くてちょっと引き摺られそうになったのを思い出す。 「俺は、チビに何を見込まれたの?」 堀田が問う。 「優しさ、です」 「それだけ?」 違うでしょう?と堀田がを見た。 「俺なら、チビが居なくなった後のちゃんを守れるって見込まれたんじゃないの?」 堀田の言葉には目を丸くする。 「あの...」 夏の暑さの厳しい夕方に出会った大きな犬は、実はキューピッドだったのかもしれない。 そんなことを思って堀田は苦笑する。 あの出来事は、メルヘンには程遠い... 「チビに見込まれたってワケじゃないけどさ」 そう言って堀田はに向かって手を差し出した。 驚いた表情で堀田を見上げていたは俯いて自分の手を重ねる。それを逃さないように堀田は彼女の手を握った。 それは柔らかくて小さくて、力加減に少し戸惑う。 「今度、動物園にでも行こうか」 「冬の動物園は中々のんびり出来て良いですよ」 笑いながらが言う。 そうかもしれない... 「けど、のんびりできるならそれはそれで良いんじゃないかな?」 「堀田さんがそう言うなら」 そう言っては笑った。 動物園に行けば、きっとは楽しむだろうし、その表情を見ることが出来てさらにのんびりできるなら言うことない。 雪がちらついてきた中、2人は次のデートの計画を立てながらのんびり並んで歩いた。 |
桜風
11.10.22
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