Valentine



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赤崎の場合
「なあ、いつ来るんだ?」

赤崎が電話を掛けてそういう。

『は?行くって話してたっけ?』

「いや、言ってねぇけど...」

言ってないけど、今日はバレンタインデーというヤツだ。来るだろう、普通。チョコを持って。

そう思って聞いたのに、彼女はつれない。

『あのね、遼。世界中の女の子がチョコレートメーカーに踊らされるかって言ったら、意外とそうでもないのよー』

からかうような彼女の口調にムッとする。

「そーかよ」

『...けど、玄関の前にはいるけどね』

彼女の返事を聞いて赤崎は慌てて玄関に向かい、それまでに二度ほど床に置いていたダンボールだとかに躓いてこけそうになった。

世良の場合
家に帰ると彼女が玄関の前に立っていた。

「ただいま」と言うと「おかえり」と言いながら彼女は両手を差し出す。

何だ?と首を傾げながらその掌の上に自分の手を重ねてみるとすとんと落とされてまた彼女は両手を前に出す。

「何だ?」

「チョコレート!」

「...普通逆なんじゃねーの?」

苦笑しながらバッグを渡した。

サポーターからもらったチョコレートが入っている。

「良いじゃない。いい?わたしは恭平がコンディションを作るそのお手伝いをしているのよ?」

したり顔で彼女が言う。

「じゃあ、俺と一緒に色々我慢しようぜ」

そんな世良の提案に彼女はニコリと微笑み、世良のバッグを鼻歌交じりに開けた。

堀田の場合
家に帰るとむせ返るようなチョコレートの香り。

かばんの中にもあるんだけどな...

そう思いながら「ただいま」と声を掛けると彼女が「おかえりなさーい」と玄関まで出てきた。

「はい、どうぞ」

手に持っているピンク色の物体。

見た感じは市販品だな、と思って「ありがとう」と返す。

「俺も持って帰ったよ」というとなんとも複雑そうな表情を見せる。

「チョコレートがたくさん家にあるのは嬉しいんだけど、なんだかちょっと..ね」

と苦笑して言う。

「俺はこれだけあれば充分なんだけどな」

そう言って彼女が渡してきたそれを軽く掲げて言う。

堀田の言葉に彼女は「えへへ」と笑って「だったら嬉しいな」とはにかんだ。

石神の場合
「ただいま」の代わりに「ちょうだい」と石神は彼女に手を出す。

「何を?」と真顔で返されて「チョコレート」とめげずに返す。

「え?ないよ」

しれっと返されて「えー、何でー」と抗議の声を上げた。

「だって、ほら」

指差されたその先を辿る。

玄関の、シューズボックスの上。今朝までは無かった花瓶がある。

「あ、チューリップ」

「そういうこと」

「え?どういうこと?!」

別に花は嬉しくない。いや、嫌いじゃないけど...

「あれ?わたしの好きな花、知らないの?」

「...チューリップ」

石神の答えにニコリと微笑む。

「でも、俺はそこまで...」

「わたしが好きな花が玄関に飾ってある。わたしは機嫌が良い。とても居心地のいい空間にならない?」

そう返されて一瞬考え、「そうかも」と零した石神は「じゃ、勝手にもらう」と言って彼女にキスをした。

堺の場合
「ただいま」と言おうとした玄関に彼女が立っていた。

少し驚き、言葉を飲んでしまったが気を取り直して「ただいま」と言う。

「おかえり!」

ニコニコと笑顔だ。

「これだろう」

そう言って堺はバッグを渡した。

彼女は嬉しそうにそれを受け取って玄関に堺を放置したままそそくさと家の中に入っていく。

「ったく...」

溜息をついて彼女に続いた。

「わー!凄い!!」

「そうなのか?」

「え?!これなんて、わたしデパ地下で30分買うべきか悩んで手が出なかったんだから」

そう言ってひとつを取り出した。

「ふーん...」

「ね、食べて良い?」

「ダメっつっても食うだろう?」

堺の言葉に「そうだね」と笑って彼女は包装を解く。

出てきたチョコレートを見て彼女の目が輝いた。

しかし「ちょっと溶けてる...」と呟く。

「そりゃ、車ん中はあったかいからな」

「何でー!」

抗議をしながらも彼女はチョコレートを摘んで口に運んだ。

「美味しい!」

思わず声が出るくらいには美味しいらしい。

堺は彼女の手を取ってチョコレートを摘んでいた指をぺろりと舐めた。

「甘いだけじゃないかよ」

眉間に皺を寄せて言う堺に彼女の顔は赤くなる。

「良則さん!」

「何だよ」

思った通りの反応に気を良くした堺はニッと笑った。

丹波の場合
家に帰ると嫌な予感がした。

「ただいま」といわずに回れ右をしたら「お帰りー」と声を掛けられて「ただいま」と振り返る。

「ちなみに、今何処に行こうとしてのかな?」

「いや、何だろうね。ははっ」

誤魔化す丹波に彼女は満面の笑みで「腕によりを掛けたから」と言う。

最近彼女が物凄く忙しいのは知っていた。

だが、それを知った上で言ってみた。

「チョコレート、俺のために愛情たっぷりに作って」と。

今の今まで「忙しい」という話をしていたのにこんなことを言った丹波にほとほと呆れながらも「良いわよ」と満面の笑みで頷く。

ちなみに、彼女のその笑顔は『怒っている』状態だったりもする。

まずったな...

そう思ったが、言ったことは訂正しなかった。

そして、帰ってきてからのこの予感。

「ほら、今日の夕飯」

チーズフォンデュの鍋にはチョコレートが詰まっている。

「飲み物はホットチョコレートね」

「え...」

「デザートもあるから」

おそらく、チョコレートアイス。

「あ、あの...」

「何?」

何か文句ある?というオーラを放つ彼女に「ありがとう」と丹波は肩を落とした。

そんな丹波に彼女は苦笑を漏らした。

「冗談よ」

「へ?」

頓狂な声を上げる丹波に彼女は笑う。

「そのチョコレートフォンデュは別に夕飯じゃないし、飲み物はワイン。デザートは苺」

「え?」

「さ、夕飯にしよっか」

ほっとした表情をした丹波は「なんだよー」と文句を言いながら彼女の支度を手伝った。

村越の場合
家に帰ると甘い香りが漂っている。

「ただいま」と声を掛けると「待ってー!」と声が聞こえて、とりあえず玄関で待機してみたが、それ以上の反応が無かったので自分への言葉ではないのかなと思って家に入る。

「ただいま」ともう一度言った村越は目をしばたいた。

家の窓を一生懸命開けている彼女の姿がある。

「...寒くないか?」

「さ..寒くない!!」

どう見ても寒そうだ。

「閉めるぞ」とおそらく開けたばかりなのだろうが、その窓に手をかけた。

彼女はしゅんとして「うん」と頷く。

「どうしたんだ?」

窓なんて開けて、と聞くと「何でもないの」と返された。

何でもないのに、この寒い中窓を全開にするのだろうか。

「あ、あのね?」

じっと彼女を見ていると居た堪れなくなったのか、口を開く。

「チョコレート、失敗しちゃったの」

ああ、甘い匂いはするが、苦そうな匂いもする。それか...

「で?どれだ?」

「え?」

「お前が作ったのはどこにあるんだ?」

「...オーブンの中。あとでひとりでこっそり食べようと思ったから。捨てるのは勿体無いし」

「そうか」と言って村越はオーブンに向かう。

確かに、黒い物体があるが、チョコレート系の菓子なら大抵黒い物体だ。

オーブンのドアを開けて黒くなった何かに手を伸ばした。

「ちょ!」と彼女が止めるがそれを口に放る。

ああ、本当に苦い。

「あ、あの...」

村越は苦笑して「ま、たまにはこんなのもありだろう?」と返してもうひとつ口の中に放った。









桜風
11.2.14


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