| 「俺も好きだ」 口を突いて出てきた俺の正直な答えだった。 誰もいない俺の部屋。さっきまでが居た俺の部屋。 俺はの残像を力いっぱい抱き締めた。 世界中の誰よりも、好き 階段を降りて行くと既にの姿は無く、台所では父さんが夕飯の支度に追われていた。 いい匂いがする。今日は父さん特製のクリームシチューだ。 俺は空腹感に襲われながらもそれを打ち消そうと台所へ急いだ。 俺には今からやらなければならない事がある。 「父さん、少し出てくるよ」 「何だ、夕飯の支度もう終わるぞ?」 俺の声に反応して父さんが動かしている手をピタリと止めた。 「ごめん。すぐ済むから」 「そうか。気を付けてな」 「うん」 俺は父さんに一言外出する事を告げると玄関へと急いだ。 その心に重大な決意を秘めて。 ピンポーン 隣の家の呼び鈴を鳴らした。小さい頃から慣れ親しんだ音だ。 暫くするとパタパタと誰かが玄関へと急いで駆けつける足音が聞こえてきた。 おばさんかか。どちらなのかは分からない。 おばさんとは驚くくらいいろんな行動が似ている。 性格や習慣がここまで酷似している親子も今時珍しい。 そんな事を考えながら待っていると玄関のドアがガチャリと開いた。 「いっちゃん・・・」 現れたのはの方だった。 おばさんは夕飯の支度だろうか。何処の家庭もこの時間帯は同じだな。 は少し驚いたように、そして困ったように俺を見つめた。 俺はその視線を受けながら本題を切り出す。 「、少し時間あるか?」 ねているというよりはお願いに近いだろう。 断って欲しく無い。俺の一大決心を無にしないで欲しい。 勝手な言い分だけど、今はそう願うしかなかった。 「・・・・うん」 は少し困ったように首を縦に振った。 夕暮れ時の道を二人で肩を並べて歩いた。 よく考えてみれば、とこうして二人で肩を並べて歩くのは久しぶりだ。 昔はよく手を繋いで歩いてた。まるで兄妹のように。 俺がに歩調を合わせてゆっくり歩いてやっていたのを思い出して俺は懐かしさに少しだけ笑った。 「何の用なの?」 の家を出てから数分間、沈黙を最初に破ったのはの方だった。 さすがに呼び出した俺がダンマリを決め込んでしまっているのにもジレたんだろう。 俺は人気の無い路地をただ黙々と歩く為だけにを呼び出したんじゃない。 俺自身の気持ちをに伝える為に呼び出したんだ。 俺は再度自分の心に言い聞かせた。 「本当はずっと言わないでいようと思ってた。との今までの関係をずっと大切にしたいと思ってたから」 肩を並べ、歩調をに合わせ、真っ直ぐ前を見たまま俺はポツリポツリと呟くように話を進めた。 「でも、やっぱり俺は俺の気持ちを裏切れない」 「いっちゃん・・・・」 の真意を聞いてしまった後での告白なんて、卑怯以外の何物でもないのは分かっている。 本当は狸寝入りなんてするつもりなかった。ただ部屋に入ってきたのが誰であれ、身体を起こそうとするのが億劫だっただけだ。 そこで聞いてしまったの声。 暖かさに満ち溢れたの言葉。 全てが突然俺の上に舞い降りてきた。何もかもが突然だ。 そして俺は、今から相手の気持ちを知った上で告白しようとしている。本当、最低だ。 でも、俺からちゃんと伝えたい。俺の気持ちを伝えたい。 そう思うのは嘘じゃない。 だから俺は言葉を続けた。 「、俺はお前が好きだ」 ずっとずっと心に秘めていた俺の想い。 言葉にするのをずっと躊躇い続けてきたその言葉。 「ずっとずっと好きだった」 今度はしっかりとに向き直して、その瞳を見つめて話した。 もう何の迷いも無い。 ただ好きだ。 の事が好きだ。 俺の胸にその想いだけが溢れて来る。 「いっちゃん・・・・」 が戸惑っているようだった。 仕方が無いだろう。こんなに突然、しかも俺から告白されるなんて脳裏に描いた事すらないかもしれない。 でもこの気持ちを伝えたい。 にだけは伝えておきたい。 俺の口から、直接伝えたい。 「世界中の誰よりも、お前だけを見つめていたい。今までも、これからもずっと」 世界中の誰よりも、 ただ、だけを・・・・。 「ごめん、ずっと言えなくて。臆病で・・・・」 そして、卑怯者で。 「ううん、ううん・・・・。そんな事、無い」 の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。 俺はその涙にそっと指で触れ、そのままの頬を撫でた。 そうする事がまるで当たり前のように。自然に。 「いっちゃん、嬉しい」 「うん」 は押し寄せる感情の波を抑えきれずに、止めどなく溢れ出る涙を拭おうともせず、ただ俺だけを見つめている。 俺もまた、もうしか目に入らない。 「、好きだ」 「うん」 「好きだ」 「うん」 「好きだ」 「うん」 何度も何度も同じ言葉を紡ぎだす。 の頬を撫でる腕がいつの間にかの細い肩を抱き締めていた。 俺の腕の中で涙を落とすが愛しい。 一滴も零すまいと、俺はより一層を抱き締める両腕に力を込めた。 暖かく、強く。そして、優しく。 の全てを全身で感じられるように。 「ありがとう」 俺達二人の間には、 もう、 空気だって入れない。 |
| 夕暮れ時の人気の無い路地を、俺とが手を繋いで歩いていた。 久しぶりに繋いだその手はとても柔らかくて暖かい。 まるで聖母のように。 「ねえ、もう『妹』じゃないんだよね?」 が微笑みながら俺にねる。 俺は何も言わずに頭を立てに振ると、は満足そうに微笑んでまた前を向いた。 「」 「何?」 「人の寝てる時に告白するのは卑怯だぞ」 「え?」 「今度は起きてる時に言ってくれよな」 正直な意見だった。 に「好き」って言われて嬉しいけど、寝ている時に言われてたら今後聞き逃してしまう事があるかもしれない。 いつも狸寝入りしているとは限らないし。 「・・・・も、もしかして」 「俺の事、好きなんだろ?」 だから今度は面と向かって言って貰いたい。 そう言おうと思っていたんだ。 でも、乙女心ってヤツは俺が思っていたよりももっと複雑で繊細なモノだったらしい。 「おっ、起きてたの!?」 俺の予想に反してひどく驚いたように声を張り上げるは、みるみる内に顔を紅潮させていった。 あ、茹蛸みたいだ。 なんて思ってしまった事はには黙っておいた方が身の為だろう。 そんなアホな事を考えていると、不意に繋いでいた手をから放した。 「いっちゃんのバカーーーー!!!!!」 手を放したかと思ったら次の瞬間、の怒号と共に鉄拳の雨がいきなり俺に降りかかってきた。 「痛ッ!痛ぇって、止めろ!おい!」 「いっちゃんのバカバカバカーーーーー!!!!!」 その予測不能な鉄拳に晒されながら、俺はもうを怒らせないようにしようと、そう心に固く誓った。 マジ痛ぇ・・・・。 |