一方通行の、恋




最悪だ。




何がって合コンに参加してその相手メンバーの中にが居た事が。

タイミングがめちゃくちゃ悪い。いや、タイミングなんてもんじゃない。運が悪い。悪過ぎる。

今回の合コンは俺の事を全部見透かしたような木村さんへの反発もあったし、に嫌われたくないからって気持ちもあった。

にこれ以上近付き過ぎてアイツに嫌われでもしらたそれこそ最低だ。

それなのに、あのの目。

「ごめん、帰る」そう言うの目が俺を一瞬だけ蔑んだように見えた。

そして友達らしい女の制止にも一切耳を貸さずにその場から足早に去っていった。

その時点で唖然としたのは俺だけじゃないが、その後の木村さんの行動にも驚いて声さえ出せなかった。

木村さんは「悪ぃ」と一言告げるとを追い掛けてこの場から退散して行ってしまったんだ。

去り際に俺に少しだけ視線を合わせたが、すぐに逸らして駆けて行く木村さんの背中が俺を拒否していたようにも思えた。

「付いて来るな」

まるでそう言われているみたいで、俺は身動き一つ出来ず、ただその場に座り込んでいるだけ。

何なんだ、一体。

どうしてこうなったんだ。

パニック状態の頭の中では事を整理しようにもしきれない。

ただ分かったのはが合コンに来ていて俺を見て去って行った。その後を追うように木村さんが出て行った。

それだけだった。






は木村さんとは良く見知った仲だ。

以前、俺が鴨川ジムに通っていた頃にが来た事があったが、ジムにが来たのはその一回だけだ。

では何故木村さんと仲がいいかと言うと、元々の趣味はガーデニングだから木村さんの実家には良く買い物に行っている。

そういえば俺も一度だけ付き合わされた事があった。

店頭に並んでいる花も、芽だけが出ている苗も、名前も何も分からずただ呆然と立っていただけだった。

いや、ただ立っていただけじゃなくて、と木村さんの会話を聞いていたんだ。

とても楽しそうに話している二人の姿を、まるで別の世界から二人を眺めているような不快な気分だったのを良く覚えている。



「二人消えたが人数は合ってるので続行するぞー!」

鷹村さんの声が聞こえた。

気が付けばテーブルには鷹村さんが注文したんだろうか、それともコース料理なのか、いろいろな料理が所狭しと並べられていた。

そういえば今日は朝飯食ったきり、何も食って無かったな。

並べられた品を眺めながらそんな事を考えていると、突然隣に座っていた鷹村さんに襟首を掴まれてぐいっと後方へ引っ張られた。

不意を突かれ体制も整える間も無かったので一瞬息が出来なくて驚いたが、すんなり後ろに倒れてみると鷹村さんが何やら俺に耳打ちしてくる。

「おい。が居なくなったからって今更抜け出すなよ」

「抜け出したりなんてしませんよ」

「お?そうか?」

俺がここから居なくなるとでも考えて居たんだろうか。だから乱暴に襟を引いたと。

俺は迷惑千万な鷹村さんを睨みつけ、咳払いをしながら起き上がった。

意表を突かれた分、マジで喉が痛かったんだ。

「何だ。お前もが帰ったから帰るかと思ってよぉ」

なんて俺には関係ないです」

「そうかそうか!まあ、楽しんで行きたまえ!」

一気に機嫌を良くした鷹村さんが俺の背中をバシバシと叩く。

クソッ。それも痛ぇよ。

「・・・・謝れよ」

ボソリと呟くが、鷹村さんは既に合コンの輪の中で、俺の声は届かなかった。

やられ損だな。

くそぅ!






その後、2時間くらいはその場所に居ただろうか。あまり良く覚えていない。

合コンなんて初めて参加したが、これといって良い訳でも悪い訳でも無く、ただ坦々と時間だけが過ぎていった。

途中何度かの友人らしい女が俺にについてどう思っているのかとか聞いてきたが、全て曖昧に返事をしただけだ。

もちろんわざと曖昧に答えた訳じゃない。の友達をからかった訳でも無い。

ただ単に、俺自身いくら考えても曖昧な答えしか浮んで来なかったんだ。

俺がの事を好きだと言ってしまえばそれでいいのだろうか。

いや、違う。

が俺の事をそういう対象として捉えてはいない以上、こんな気持ちは捨ててしまった方がいいんだ。

それでなくてもは俺の事を兄貴みたいに慕ってくれている。まあ、馬鹿にされる事もしばしばだが。

一方通行の愛情がどれ程相手に負担を掛ける物なのか、今までそんな事考えもしなかったが、今なら分かる。

気の無い相手からの想いは、負担以外の何物でもないと。

邪魔なだけだと。

だから、俺は素直になれないんだ。

素直にが好きなんだと伝えてしまえばどれ程楽なのか、想像しても言葉に表せる訳が無い。

を苦しめるような事だけは、絶対にしたくないんだから。




「おい、宮田!二次会はどうする?」

店を出てこれからどうするのか相談している鷹村さん達よりも、数歩離れた所に立っていた俺はその声で我に返った。

隣には板垣が控えている。二人はどうやら二次会まで行くらしい。

「いえ、俺はこれで帰ります」

俺は慌てて首を横に振った。

元々一次会でお暇しようと考えて来たんだし、それにこんな状態じゃ一向に楽しめる筈も無い。

俺が断ると、鷹村さんは顔を顰めて腕組みをした。

「何だよ、付き合い悪ぃなぁ〜」

「木村さんよりは付き合い良かったじゃないですか」

そうだ。木村さんよりは付き合い良かったと思うぞ、俺。

鷹村さんは途中で抜け出した木村さんを思い出したんだろう。両拳を交互に胸の前でボキボキ鳴らしている。

「あの野郎は明日酷い目に合わせる!途中抜け出しやがって!!」

・・・・木村さん、ご愁傷様。

明日はジムに行かない方が身の為だ。

などと、他人の心配をしている場合じゃない。

木村さんはの後を追ってどうしたんだろう。

追い付いて二人で何処かへ出掛けたんだろうか。それとも見失ったとか?

まさか。あんなにすぐに追い掛けて行ったんだ。見つけられない筈が無い。

は木村さんに何を話しているんだろう。

「合コンなんて興味無い」

なんて以前言っておきながら、今日ここに居る事でも愚痴っているんだろうか。

もしそうだとしたら、きっと甘い物でも食べながらプリプリ怒ってるんだろうな。あいつ、かなりの甘党だから。

甘い物を食べながら怒っているを想像して急に笑いが込み上げてきた。




結局俺はの事ばかり考えてる。

他の誰でも無く、の事だけを。






偶然出会ってしまった合コンの会場。
去っていったヒロインを追いかけたいけど追いかけられない宮田君です。
でも結局頭の中はヒロインの事でいっぱいですね。
次にどうなっていくのか楽しみですvv

関リョーコ

2004/10/20


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