神様の、悪戯




今頃皆盛り上がってるのかなー。

...いっちゃんも楽しんでるのかなぁ。

「お待たせ、ちゃん。はい、苺クレープ」

「ありがとうございます。...木村さんのは?」

「ハムレタスクレープだよ。食べてみる?」

お言葉に甘えて一口もらうと、改めて空腹を自覚する。

「おいしいですよ。木村さんもこっちを食べてみます?」

私の持ってる苺クレープを差し出すと木村さんは苦笑をしながら片手を上げて

「いや、いいよ。何ならこっちもあげるけど?」

なんて言って来た。

「...私を太らせる気ですか?でも、木村さんって本当に優しいですよね」

しみじみと思ったことを口にすると

ちゃんもそう思う?俺もそう思うんだよね。何で俺は未だにフリーなんだろうな?」

おどけて言ってるけど何だか心の叫びのようにも聞こえてしまった...

でも、

「だからじゃないんですか?」

「『だから』って?」

「木村さんはいつも優しいからですよ。私は..普段は愛想の無い人が時々見せる優しい

笑顔とか、我関せずな主義っぽいのに困ってたらさりげなく手を貸してくれる人とかいいですね」

そう言って木村さんを見上げると何だか優しい目をして私を見ていた。

「そうか。それがちゃんの宮田の好きなところか」

木村さんに言われて慌てて

「私、いっちゃんのことだって言った覚えは無いですよ?!それに、いっちゃんは『興味が無い』って言った合コンに参加して言ってることとやってることが違うし、いつも素っ気ないです。

それに、話しかけても適当に答えるし、妙に神経質だし。それに、ええと、ええっと...」

どうしてもいっちゃんの悪口が続かなくて困ってると木村さんがポンって私の頭に手を置いて

「わかった、わかった」って子供扱いをしてくる。

...でも、何でだろ。木村さんのは何だか安心する。




そのまま帰りは木村さんが送ってくれた。

明るいところを通るから大丈夫って断ったけど何だか上手く丸め込まれてしまった。

「ありがとうございました」

「いや。じゃあね、おやすみ」

木村さんを見送ってふと振り返ると人影が見えた。

向こうは気づいたみたいだけど、でも、何となく私の方は彼に気付かない振りをして家に入った。




それから数日、私はいっちゃんの姿を見ると思わず隠れてしまう。

あの合コンの日、私はいっちゃんに自分の感情を押し付けてしまった。

それを思出だすと恥ずかしくていっちゃんに合わせる顔がない。

そんな中、神様の悪戯かそれとも気まぐれか。

ちゃん。今日の夕飯は一郎君も呼んであげなさいね」

「はあ?」

今日から母さんは三日ほど単身赴任をしている父さんの元へ娘を置いていく。

まあ、私が行きたくないって言ったんだけどね。

ウチの両親は未だに新婚ホヤホヤみたいなバカップルの勢いでイチャつくから見ていてこっちが恥ずかしくなるんだよね。

まあ、それはともかく、

「何でいっちゃんも呼ぶの?おじさんは?」

私的に当然の疑問というか、悪足掻きをすると

「宮田さんは昨日からどこかに行ってるそうよ?選手さんの試合について行かれたんじゃないの?

それに、宮田さんに聞いたんだけど、一郎君って一人だと食事をすることが面倒くさくて食べないんですって」

...いっちゃ〜ん。子供じゃないんだからご飯くらい一人でも食べようよ。

「わかった。声掛けてみるよ...」

「そう?じゃあ、お母さん、パパのところへ行ってくるわね。じゃあね〜」

ウキウキした足取りで母さんは家を出た。

私は溜息を一つ吐いて夕飯の献立を考えることにした。

―――いっちゃん、何が好きだったっけ?




結局いっちゃんの好きなものが思い浮かばなかったから私の好きな和食でいくことにした。

何となく気まずいけど、調理の途中に重い足取りでお隣のいっちゃんの家に向かう。

インターホンを押して少し待ってみたけどいっちゃんは出てこない。

半分ほっとして、半分残念に思いながら回れ右をすると目の前には

「いっちゃん...」

?久し振り、だな。隣に住んでるのに全然会わなかったもんな」

それは私が逃げてたから、とは口が裂けてもいえない。

やっぱり久し振りのいっちゃんが嬉しくてボー、としてたけど

「何か用か?」

いっちゃんの声で我に返る。

「うん。今日の夕飯はウチに食べに来てね?」

「いや、おばさんに迷惑だろ?一人で大丈夫だから」

「ううん。今日から母さんは父さんのところへ行ってるから私一人だよ?いっちゃんのところはおじさん居ないんでしょ?

いっちゃん一人だとご飯食べないって聞いたから一緒に食べよう?」

そう言うといっちゃんは一瞬目を泳がせて

「いや、でも...」

何故か渋る。

「大丈夫だって。今まで私が作ったものを食べてお腹壊した人はいないし、食べれる代物だよ!...きっと」

確かに母さんよりは下手だけど。

「いや、そういうのじゃなくて...」

「じゃあ、何?」

「...わかった。それじゃあ、ジムの練習が終わった後で行くよ」

今の間は何?!

追求したかったけど、お鍋を火にかけたままだということを思い出して慌てて家に帰った。

いっちゃん、本当に来てくれるかな?




時計が8時を回った頃にインターホンが鳴る。

「おかえり!」

ドアを開けていっちゃんを迎えるといっちゃんは何に驚いたのかちょっと目を丸くしていたけど、

「ただいま」

と優しい声で言った。

いっちゃんには座ってもらってお皿におかずを盛っていると頬杖をついたままのいっちゃんが

「へえ、でもまともな物が作れるんだ?」

なんて言ってくる。

「失礼ね!これくらい作れるよ!!」

いっちゃんのわざとらしい意地悪な一言にムキになって返す私。

いつもどおりでちょっと嬉しかった。




ご飯を食べ終わって、片付けはいっちゃんも手伝ってくれた。

「ねえ、いっちゃん。お願いがあるんだけど」

「...何だ?」

「数学を教えてほしいな、なんて...」

実は宿題がまずかったりする。

まだ日数的には大丈夫だけど、確かいっちゃんは理数系が得意だったって聞いたことがあるし、今日はいいタイミングだと思う。

「数学...もう5年も前のことだろ?覚えてないと思うけどな。まあ、一応見てやるよ。今日の夕食のお礼にな?」




こうして夕食後の勉強会が始まった。






一郎さん、一人だと食生活がズボラっぽいイメージを持っているのは私だけでしょうか?
試合前に大変だから体力作りには気をつけていると思うけど料理に関してだけは、
作れないとかそういうイメージ(笑)

桜風

2004/10/27


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