| 私の大切な、秘密 いっちゃんと向かい合ってリビングで勉強会を始めた。 勉強会って言っても私が教えてもらうだけなんだけどね。 「いっちゃん、これ分かる?」 ちょっと引っかかるところでいっちゃんに聞いてみるとすぐに参考書を捲って 「これはここの公式当てはめて計算すればいいんだよ」 ってあっさり答えてくれた。 「なるほど」 さすがいっちゃんだね。 ...本当は勉強に集中しなきゃいけないのにどうしてもそれが出来ない。 ずっと気になって仕方がないことがあったから。 「いっちゃん」 意を決して聞いて見ることにした。 「何だ?」 「合コン、どうして来たの?」 聞くといっちゃんは少し眉間に皺を寄せた。 「誘われたから行っただけだ」 静かにそう答えたいっちゃんの声は少し冷たかった。それでも、やっぱり納得いかなくて 「いっちゃん、以前合コンとかそういうの嫌いだって言ってたよね?」 そう聞いたけど 「それがどうした?」 冷たく返ってくる返事に思わず 「だって言ってる事とやってる事、全然違うじゃない!」 声を荒げてしまう。 私、カッコ悪い... 私がいっちゃんのことをとやかく言える立場じゃないのは分かりきってる。 いっちゃんにとって私は幼馴染で『妹』で...それ以上の存在にはなれない。 「お前だってそういう場所好きじゃないとか言っておきながら居たじゃねぇか」 そう言われて動揺してしまう。いっちゃんは間違ったこと言ってない。 「私は、その・・・・、誘われたから」 「ふうん」 何を言っても見苦しい言い訳にしか聞こえない。それでも、いっちゃんに分かってもらいたくて 「本当はね、断ったんだよ。でも、断り切れなくて・・・・」 「・・・・」 「でもね、違うの!誰かと知り合いになりたいとか、付き合いたいとか、そういうのは無しで友達に強引に・・・・!」 何でいっちゃん、私の顔を見てくれないの?何で、目を見て話を聞いてくれないの?? 「俺に言い訳しても仕方無ぇだろ?」 「・・・・あ」 「別にいいんじゃねぇか?そういう所に行っても。誰もを責めたりなんてしないよ」 いっちゃんに突き放されたようで、いっちゃんがとても遠くなったみたいで、凄く、痛かった... 「・・・・うん」 「早く宿題済ませちまえよ」 「・・・・うん」 いっちゃんの顔を見るのが怖くて、私は俯いたままただ静かにノートを写した。 一通り宿題が済んだからいっちゃんが帰ることになった。 いっちゃんも忙しい身だし、私も今はいっちゃんといるのが少し苦しいから引き止めることはしなかった。 それでも、どうしても聞きたいことがあって、玄関までいっちゃんを送って靴を履き終わったいっちゃんに 「ねえ、いっちゃん」 声を掛けた。 「何だよ」 「聞かないの?合コン途中で抜け出して木村さんと何してたのかって」 「・・・・え?」 あのとき、いっちゃんは私と木村さんに気付いていたはず。 でも、何も言わない、聞いて来ない。 「見てたんでしょう?木村さんがこの家の前まで送ってくれるところ」 いっちゃんは一度目を瞑って私を見てきた。 「いっちゃんは気にならないの?」 「別に俺には関係ねぇだろ?」 いっちゃんの声が私の胸に刺さった。何で、そんな言い方をするの? 「じゃあな。飯、美味かったよ」 そう言っていっちゃんはドアを開けて出て行った。 ドアが閉まる少し前にいっちゃんと目が合った。 何も言うことができないままガチャリと音を立ててドアが閉まった。 「少しくらい、気にしてよ」 閉まったドアの向こうのいっちゃんにそう呟いた。 翌日。 学校が休みでも家にいいガーデニングの素材がないことに気が付いて予定じゃなかったけど木村さんの家に向かった。 「よお、ちゃん。学校は?」 「こんにちは、木村さん。今日は休日というものですよ?」 お店には木村さんが居た。 どうもこの人は敏いからこういうときには会いたくないんだけどなぁ... 「ああ、そうか。こういう商売してると休みとか分からなくなるんだよな。あ、花屋じゃなくてボクサーの方ね?で、今日は何にする?」 「そうですね。何がいいだろ」 お店の外に置いてある苗を覗き込んでいたら 「ちゃん。何かあった?」 後ろから木村さんが声を掛けてきた。 ...本当になんでこんなに敏いんだろう。 「別に何もないですよ。木村さん、どうしたんですか突然?」 背中を向けたままそう答える。 誤魔化すのが苦手な私でもやれるだけの事はやっておきたい。...言葉、遣い方がちょっと違うかも??まあ、いいや。 「そっか。じゃあいいんだけど」 やっぱりバレてるのか木村さんは苦笑をしながらそう言った。 「なあ、ちゃん」 木村さんが再び声を掛けてきた。 「何でしょう?」 振り返ると木村さんの顔がとても難しそうだった。 何だろう...? そのまま木村さんの言葉を待ってると 「あのさ、ちゃんの方がよく知ってると思うけど。宮田は、凄く不器用なヤツなんだよ? 自分の気持ちとか素直に言えなくて、人とどう接していいか分からなくて。 それが大切な人なら尚更、どうしていいか分からなくてきっと裏目に出るんだよ。ちゃんだけはさ、それを分かってやっててよ」 そう言い難そうに言われた。 何で、木村さんはそんなにいっちゃんのことが分かるんだろう? でも、 「でも、いっちゃんは私に分かってもらいたいなんて思ってませんよ。昨日だって・・・」 昨日のことを思い出すと凄く胸が締め付けられて苦しい。 ドアが閉まる前のいっちゃんの凄く困ったようなそんな顔を思い出してしまう。 もう、わがままを言って困らせることは出来ない。私はそんなことが出来る立場じゃないんだから... 「俺はそうは思わないよ、ちゃん。だって宮田は」 「私、これにします」 言葉を続けようとした木村さんを遮って話を終わらせた。 木村さんが何て言おうといっちゃんにとって私は『妹』なんだから... 木村さんも無理に言葉を続けようとせず、私が指差した苗を持って店の中のレジへ向かった。 木村さんの後ろ姿を眺めながら私は安堵の息を吐く。 これ以上いっちゃんの話を続けてたら想いが言葉になって出てきそうで怖かったから。 この気持ちは私の大切な秘密。 小さい頃からの私だけの秘め事... |