いっちゃんとウチでご飯を食べたあの日から、何も無い日が続いた。

そう、進むことも終わることも無いそんな日が。

そして、それに安心している自分もいて、そんな自分が凄く嫌いだった。

私は、弱くて臆病な人間だ。




いっちゃんは前と変わらずに私を見かけたら声を掛けてくれてた。

そして、私はいつかのようにいっちゃんから逃げるのはやめた。

あの時はいっちゃんから逃げながらも、結局隠れながらいっちゃんの姿を目で追ってた。

そんな自分が嫌になった。

私は『妹』なんだから、こそこそするのはおかしいもん。

でも、どうしてもいっちゃんの瞳を見ることが出来ない。

私の気持ちを誤魔化すことができなくなりそうで、気持ちに気付かれそうで...

そして、この私の想いはいっちゃんにとって迷惑だということが分かってるから








私の最後の、強がり






ある休みの日。

朝早くに目が覚めたから、朝ごはん前の軽い運動代わりに庭の手入れをしていた。

「相変わらず、精が出るな、

生垣の外から声が聞こえて立ち上がって確認すると、そこにはやっぱりいっちゃん。

「いっちゃんこそ、いつもいつも頑張ってるじゃん」

「まあな。なあ、・・・」

「何?」

こんな歯切れの悪い物言いをするいっちゃんなんて初めて。だから、一生懸命聞こうと思ってたら

「いや。何でもない」

そう言って誤魔化す。

「何よ。言いかけてやめられるとすっごく気になるんですけど?!」

「お前、この間のテストどうだったんだよ。俺、数学教えただろ?ちょっと気になってたんだよ」

...そんなこと聞かないで〜。

「ん。...いっちゃんが教えてくれてた範囲は、なんとか。さあて、朝ごはんが待って

るから私帰るね。じゃあ!」

詳しいことは言いたくないから逃げるのが一番。

家に入る前にもう一度振り返ると、いっちゃんはまだ生垣の傍に立ってて俯いて少し厳し

い顔をしていた。

何か思い詰めたような、責めてるような...

試合前のいっちゃんみたいだったけど、試合が近いって話は聞いてないからそれは無いだろうし。

どうしたんだろう?

やっぱ、私のテストの結果がよろしくないのを気にしたのかな?いっちゃんのせいじゃないのに...

少し反省をしながら玄関のドアを閉めた。




それから数日後。

学校から帰ると玄関で母さんが私を待ってた。

「どうしたの?」

ちゃん、靴を履いてるうちにお願い。宮田さんのお宅へこれ持って行って」

そう言って渡されたのは煮物の入ってる鍋。

「また、作りすぎちゃったんだ?」

「う...。ち、違うわよ。宮田さんのところは色々と大変だろうから」

なんだかしどろもどろで言い訳をしている母さんに

「はいはい。じゃあ、行ってきます」

適当に返事をして鞄を玄関に置いたままお鍋を持って家を出た。

時々、凄く大量におかず作っちゃうんだよね、母さんは。

勿論、いっちゃんの家にお裾分けをする目的でたくさん作る事だって少なくないけど...

「こんにちはー!」

今日はインターホンを無視してドアを開けて声を掛ける。

さっきおじさんを見たから家に誰かがいるの、分かってたから大丈夫。

「おや、ちゃん。どうしたんだい?」

エプロン姿のおじさんが笑顔で玄関まで出てきた。

しかし、エプロン姿似合うよねおじさん...

「あの、これ。お裾分けです。母さんに持ってって言われたので持って来ました」

「ああ、これは。いつも悪いね。そうそう。随分前のことになるけど、

私がいないときに一郎と一緒に夕飯食べてくれたんだってね。

しかも、ちゃんの手料理だったって聞いたよ。ありがとう」

おじさんに言われて、あのときの余裕の無かった自分を思い出してしまった。

何で、あんなこと聞いちゃったんだろう。

あれが無かったらまたいつもの私に戻れてたかもしれなかったのに...

ちゃん?」

「え?!あ、はい」

思わず回想に耽ってたらおじさんに声を掛けられて我に返る。

「あー。一郎、部屋にいるんだ。悪いけど声を掛けてきてくれないかな?私は夕飯を作り

かけだから」

「はい、分かりました」

返事をして階段を上る。

目指すは突き当たりのいっちゃんの部屋。




部屋のドアを前に深呼吸を1回。

緊張しながらノックをしても返事がない。

ドアノブを回して顔だけ部屋の中に入れるとベッドの上になにやら黒い塊がいた。

「うわ、珍しい」

おじさんの許可が下りたこともあって、いっちゃんの部屋に入った。

良く考えたら何年ぶりだろう。随分この部屋に来てない。

そして、何が珍しいかっていっちゃんが熟睡してること。

人の気配に敏感だから誰かが部屋に入って来たら起きるのに。

そおっと起こさないようにいっちゃんの寝顔を覗き込む。中々見れるモノじゃない貴重な寝顔。

最近直視出来てなかったから本当に久し振りで...

何だか分かんないけど、涙が出てきた。

膝をついて、

「好きだよ、いっちゃん・・・」

背を向けて寝ているいっちゃんに抑えきれない想いを呟いた。

長い時間、少しずつゆっくり積もってきた私の気持ち。

誰にも言えなかった言葉。きっとこれが最初で最後の告白。

少ししたら涙もおさまったから、いっちゃんの部屋をあとにした。




さっきの告白は、私の気持ちへの「さよなら」が込もってた。

もうしまっておけない、隠し切れない私の想い。

それなら、捨てるしかない。

そう思った...

それが、私の最後の強がり。








ヒロインサイドの最終話でした。
何だか思い詰めてますね、彼女...
さて、次回がこの連載の最終話となりますね。
一郎さんがどう出てくるか、非常に楽しみなところです♪

桜風

2004/11/24


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