| 今日は折角のクリスマスイヴだというのに残業だった。 『これから彼氏と約束があるの』 と、いそいそと帰っていく同僚を少し羨ましく思った。 私にだって彼氏はいる。 居るけど、私の誕生日は勿論、自分の誕生日すら忘れていた熱血ボクシング馬鹿。そんな彼が『クリスマス』なんてイベント、知っているかも正直疑問だ。 彼の1番はボクシング。2番は..なんだろう?ま、とにかくボクシングが1番。そこが不満ってワケじゃない。彼がボクシングをしている姿はかっこいいし、ちょっと臭い言い方だけど、輝いている。 でも、こういうときはやっぱり寂しいし、言い出しにくい。 勿論「イヴに一緒に過ごしたい」って言ったら一緒に過ごしてくれると思うけど、練習の邪魔をしたくないし、何より、年上としての余裕も見せたいと思う私は見栄っ張りで強情。 今日は1人でシャンパンでも飲んで寝よう。 空からチラチラと白いものが降って来た。雪だ。 彼と一緒に過ごしていたら「ロマンチック...」ってうっとりしたのかも知れないけど、生憎今の私は独りだ。 積もらなきゃいいけど、と恐らく世の恋人が居る人たちとは真反対のことを思う。 「おい」 あらいやだ、幻聴まで聞こえてきちゃった。彼の声がする。 「ちょっと待てって。恋人の前を素通りするなよ」 そんな声を聞いて振り返ると熱血ボクシング馬鹿な私の彼氏、宮田一郎の姿が目に映る。明らかに不機嫌面だ。 「あれ?どうしたの、一郎くん」 一郎くんに近づいて声を掛ける。 「どうしたの、じゃねぇよ。まったく。...今日は遅かったんだな」 何となく一郎くんの頬に触れて私は驚いた。 「何よ、この冷たさ!いつからここに居たの?!」 「...2時間くらい前?」 「ああ、もう!とにかく、ウチに来なさい!!」 私は一郎くんの冷え切った手を掴んでぐいぐい引っ張りながら我が家を目指した。 今日ほど文明の利器、炬燵を発明した人に感謝したことは無い。 エアコンは部屋が暖まるのに時間が掛かるから、一郎くんを炬燵に押し込めてエアコンもいれた。 「一郎くん、シチューがあるけど食べる?」 鍋に火をかけながら声を掛けると、 「ああ、食べる」 という返事がある。 アルコールは少しくらいなら大丈夫って前に聞いたことがあるし、シャンパングラスも一対用意した。 折角だ。 ケーキもチキンもツリーも無いけど、大好きな彼とシャンパンでクリスマスを満喫しよう。 「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね。あと、これ。一緒に飲まない?」 シャンパンのビンを軽く持ち上げて一郎くんに聞いてみると 「ああ。なんだ、さん何も言わないからクリスマスを知らない、もしくは嫌いなのかと思ってた」 とちょっと驚いたように一郎くんが呟く。 いや、アナタじゃないんだから... 「そうか、それじゃあ」 呆れていると一郎くんは傍においていた上着のポケットから綺麗にラッピングしてある小さな箱を取り出して私に手渡す。 これまた予想外。 クリスマスイヴを一郎くんと過ごせるってだけでも奇跡なのに、その上... 「クリスマスプレゼントだよ。何がいいか分からなかったから、気に入ってもらえると嬉しいんだけど。開けてみて」 手渡された箱に見入ってる私に一郎くんが照れくさそうにそう言った。 私はゆっくりとリボンを解き、丁寧に包装紙をはがした。 箱を開けると天使の羽がモチーフになっていると思われる可愛らしいネックレスが光る。 「かわいい...ありがとう。あ、私もあるんだ、一応」 そう言って用意していたものを取りにいく。用意してたって言っても一郎くんはクリスマスを知らないだろうからお年玉代わりにお正月にでもあげようと思っていたものだ。 「はい。受け取って?」 彼は素直に受け取り、「開けていい?」と聞くから「どうぞ」と私は促した。 ガサガサと包装紙をはいだ彼は 「マフラー」 と呟く。 そう。マフラー。しかも手編みってヤツです。 まっすぐなものなので初心者向きですって本に書いてあったからそれにした。 自分の不器用っぷりは知っているから実は半年も前から編み始めた。先週やっと完成したばかりのものだ。 「サンキュ、さん」 マフラーを巻いて一郎くんが優しく微笑む。 ああ、幸せ。窓の外はうっすら薄化粧。 なんて、ロマンチックな夜などとげんきんにも思ってしまう。 グラスにシャンパンを注いで彼のグラスと私のグラスを合わせる。 「メリークリスマス!」 クリスマスの奇跡に乾杯!! |
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