| この前までお正月だったのにいつの間にか街はヴァレンタインムード。 まあ、このイベントも今となってはお菓子会社の戦略に踊らされているようで気が進まない。 ...というのは建前で、ボクサーをしている彼に甘いものは『ベスト・オブ・タブー』のハズだからこのイベントを楽しめないからつまらないってのが、ホンネ。 仕事の帰りに花屋さんの前を通った。 『ヴァレンタインに愛する人への花束はいかがですか?』 というフレーズのポスターが貼ってあった。 私は思わずそのポスターの前でそれを凝視する。 盲点だった... ヴァレンタイン=チョコレート(甘いもの)と考えていた私には食べ物以外のプレゼントが思い浮かばなかった。 でも、これならボクサーをやってる彼にもプレゼントすることが出来る。 彼は花を心から嫌うような人ではないし、家も広いからきっと置く場所に困らない。 「どうですか?ヴァレンタインに花束なんて」 お店の中からエプロンをつけたお兄さんが出てきた。 「はい。目からウロコでした。甘いものがダメな人ですからこのイベントはパスしようと思っていたんですけど。お花ならきっと大丈夫です」 「それは良かった。早めにプレゼントをしたい花をご指定いただければ入荷しますし、配達もしますよ」 「本当ですか?!じゃあ、少し考えてきます。また来ますね。ありがとうございます!!」 私は急いで家に帰った。 花と言えば花言葉。 折角のヴァレンタインに贈るものなんだからそういう意味を持つ花をあげたい。 まあ、私が拘っても彼が気付くとは思えないけど、それはそれ。 色々調べてみるがこれが案外難しい。私が勝手に花言葉をつけてしまった方が早いと思うほど納得のいく花言葉がない。 唸りながら探していると、ある花が目に付いた。 これなら花言葉も悪くないし、花としても派手な方だと思う。切花にもいいらしい。 でも、私はこの花の入った花束なんて見たことがない。 素人の私が一人で悩んでたって仕方がないので明日またお店に行ってみることにした。 翌日。 私は昨日の花屋さんをのぞいてみた。 「こんにちは」 「あ、こんにちは。どうです?決まりました??」 「はい。あの、コチョウランで花束作れますか?」 「『コチョウランで』ですか?えーと、ちょっと待っててくださいね」 そう言ってお兄さんはお店の奥へ入っていった。 『見ない』ってことは、やっぱり難しいってことなのかな? そんなことを考えているとお兄さんが戻ってきて「大丈夫ですよ」と言ってくれた。 その後、予算などの相談をして家に帰った。 2月14日。 やっぱりその日も彼は練習があるからそれが終わってから来てもらうことになった。 仕事帰りに花束を受け取って、帰ってから夕飯の準備をする。 約束の時間の少し前に彼が来た。 「いらっしゃい、一郎くん」 「おじゃまします」 夕飯を済ませて落ち着いたから私はお風呂場においておいた花束を取って来た。 「一郎くん、これ」 「...何?」 「今日がヴァレンタインって知ってる?一郎くんは甘いものがダメでしょ?だから花束にしたんだけど..イヤだった?」 彼は一瞬驚いた顔をしたけど目を細めて 「サンキュー、さん」 と受け取ってくれた。 ふと、何かを思い出したのか、彼が 「ところで、さん」 と声を掛けてきた。 「なに?」 「確かに、カロリーがあるから甘いものとか好きじゃないけど。1つだけ、甘いけど好きなものがあるんだ、俺」 それは初耳。 「それって何?」 用意が出来るものなら用意をするよ、と思っていたら私の頬に手を添え、彼の顔が近づいてきた。 ...まさか。 彼は私の唇に口付けてきた。 長いキスの後、 「やっぱり、甘いな」 イタズラっぽい笑みを浮かべた一郎くんは呆然としている私にもう一度軽く口づけて微笑んだ。 |