| 先月のバレンタインデーにさんから花束を貰った。他にも貰ったものあるけど... というわけで、俺は今月のホワイトデーに何を贈ればいいか悩んでいる。花だと、さんと同じだし、甘いものは、あの人突発的にダイエットを始めるからなぁ。アクセサリーってのは定番だし、何より買いに行くのが、何と言うか『試練』だ。 色々考えてみるけど、全部ダメな気がしてきた。 本当に俺は気配りが苦手なようだ。こんな時、あの人なら楽に思いつくのだろう、と元ジムメイトのJライト級のプロボクサーを思い浮かべる。 でも、羨ましがっても仕方がない。俺は俺なのだから。 そして、結局思い浮かんだものといえば。 「もしもし、さん?俺だけど」 『一郎くん?どうしたの?』 「あのさ、14日、何か予定入ってる?」 『ううん、大丈夫だよ?一応仕事があるけど、お休み取れるし』 「じゃあ、どこか出かけないか?さんの好きな所、何処にでも付き合うよ。その..バレンタインのお返しって言ったら何だけどさ」 『本当?!一日中歩き回るよ?買い物もたくさんして、荷物持ちしてもらうよ?アクション要素の少ない恋愛映画見たいって言っても?』 「もちろん、いいよ」 『まあ、映画は冗談として。ホントにいいの??』 「だから、いいって」 『じゃあ、買い物付き合ってほし...やっぱイヤだ』 「は?」 さっきまで楽しそうに出かけることを話してたさんが、突然出かけるのを嫌がる。 俺、何か言ったっけ? 『やっぱり、ウチでのんびりまったりしよう!そっちでいい?』 「いや、いいけど...」 『じゃあ、そっちで』 さんは時間を告げて通話を切った。 彼女の突然の心変わりに混乱しつつも、俺は新たな悩みを抱えてしまったことに気付く。 家に行くってことは手土産無しってワケにはいかないよな?ホワイトデーだし。 3月14日。 約束の時間に彼女の家のインターホンを押した。 手土産は結局彼女と同じになってしまったけど、花束にした。さん、花が好きなみたいだから... 『どうぞ、鍵開いてるよ?』 インターホンからの彼女の返事を聞いて家に入ると、 「何やってるんだよ」 「いらっしゃい。ごめんね、少し散らかっちゃった」 俺は唖然とした。 彼女は部屋の模様替えをしていた。『少し』なんてレベルではない程の散らかりようだ。 今日はここでのんびりまったりするんじゃなかったのか?! 取り敢えず、傍観しておくわけにはいかないだろうから手伝うことにした。 その後、2時間くらいの肉体労働の後、やっとのんびり出来るようになった。 ...どうでもいいけど、甘くない展開だよな。 「ありがとう、一郎くん。凄く助かっちゃった」 コーヒーが淹れてあるカップを俺の前に置きながらさんが笑う。 まあ、さんの笑顔が見れたから良しとするか、とも思ったが、やっぱり気になるものは気になる。 「なあ、部屋の模様替えがしたくて外出をやめたのか?」 「え?いや、う..うん。そだよ?」 ...どうも違う気がする。 「本当か?他に理由があるんだろ?」 彼女は視線を彷徨わせながら 「――――――」 と、俯いて何か言った。残念ながら聞き取れない。 「悪い、もう1回言ってほしいんだけど」 「だって、一郎くんが外を歩くと女の子が皆注目するんだもん。...今日くらい独り占めしたかったの」 俺は嬉しくて緩む口元を手で隠した。これは、彼女に何かプレゼントをするのではなく、俺がプレゼントを貰ったようなものじゃないか。 俺は彼女を抱き寄せて 「さん。他の誰が俺を見ても、俺が見てるのはさんだから」 と囁いて軽く口付ける。 彼女は嬉しそうに笑って、甘えるように抱きついてきた。 |